資金繰り
インタレストカバレッジレシオとは?業種毎の目安と計算方法
2023年04月26日
インタレストカバレッジレシオとは、利息の返済能力や企業の安全性を表す財務指標です。金融機関や投資会社が融資を検討する際に重要視しており、適切な数値であれば一定の信用を得られます。
しかし中には、「具体的に何を表す指標なのか」「良い悪いを判断する目安はあるのか」など、インタレストカバレッジレシオについて詳細が分からず、気になっている人もいるのではないでしょうか。
当記事ではインタレストカバレッジレシオの概要や計算方法、業種ごとの目安などを解説します。
もくじ
インタレストカバレッジレシオとは?
インタレストカバレッジレシオとは、法人・個人の債務返済能力を表す財務指標の1つです。「事業が出している利益に対し、適切な借入金額になっているか(借入金に依存した経営になっていないか、財政的に余裕があるか)」を表します。
インタレストカバレッジレシオを活用するケースは次の通りです。
- 金融機関や投資会社が、他企業への融資・投資を検討する際の判断材料になる
- 自社の返済能力の分析・把握に用いることで、借入金を意識した返済計画を立てられ、資金繰りの悪化や倒産のリスクを抑える
- 証券アナリストが企業の安全性分析を行うときに利用する
原則として、インタレストカバレッジレシオの数値が高いほど、企業の安全性が高いと判断が可能です。
融資の利用を検討している場合は、自社のインタレストカバレッジレシオの数値について「理想的な数値になっているか」「なぜこの数値なのか説明できるか」などを明確にし、担当者への適切なアピール・説明ができるようにしておきましょう。
インタレストカバレッジレシオの計算方法
インタレストカバレッジレシオは、「事業活動や金融資産関係で得られる事業利益」と「借入金の利息など資金調達にかかった支出である金融費用」の割合で表されます。計算式は次の通りです。
インタレストカバレッジレシオ=事業利益(営業利益+受取利息+受取配当金など)÷金融費用(支払利息+割引料+社債利息など)
事業利益のうち、本業による利益が営業利益です。本業以外での利益は、貸付金などによる受取利息・取得済みの株式に関する受取配当金が主に該当します。
金融費用に該当するのは、借入金に対する支払利息、手形割引の割引料、社債発行時に発生する社債利息などです。事業利益や金融費用の数値は、損益計算書に記載されています。
これらはあくまで一般的な解釈であるため、金融費用を支払利息のみにしてシンプルに計算するといったケースも存在します。
簡単な計算例は次の通りです。
項目 | 数値(万円) |
営業利益 | 500 |
受取利息 | 50 |
受取配当金 | 100 |
支払利息 | 20 |
割引料 | 10 |
社債利息 | 20 |
事業利益(500+50+100)÷金融費用(20+10+20)=インタレストカバレッジレシオ13
上記のケースのインタレストカバレッジレシオは、13倍になります。
インタレストカバレッジレシオの目安
原則として、インタレストカバレッジレシオが高いほど、金利負担に関する支払い能力が高い(利息の返済に必要な事業利益を得ている)と判断できます。
おおまかな目安は次の通りです。
インタレストカバレッジレシオの目安 | 判断基準 |
1倍未満 | 返済能力・安全性に難あり |
1倍 | 最低基準 |
2~3倍 | 標準的な返済能力・適正な安全性 |
10倍以上 | 安全性が高い理想的な返済能力 |
とはいえ、実際には「インタレストカバレッジレシオが低くても問題がない」、「高くても将来性が見込めず評価が低くなる」、「設立年数・事業戦略の関係で数字が上下する」など、目安に対して実態を反映していないケースがあります。
いくつか具体例を見ていきましょう。
- 創業2年目で業績も良好だが、創業融資を利用しているので借入利息の数値が大きくインタレストカバレッジレシオが低い
- 過去数年の事業利益の上昇は落ち着いているが、長年の経営で固定顧客が付いており、インタレストカバレッジレシオが安定している
- 事業規模が大きく事業利益も順調だが、新規事業立ち上げや事業拡大のために融資や社債を活用しており、一時的に借入利息や社債利息が増加したことでインタレストカバレッジレシオが低下している
- 売上・利益が少ないが借入金のほうがさらに少なく、一見インタレストカバレッジレシオが高いように見えるが、その後事業成長がなければ資金ショートや倒産の可能性がある
- 「3年連続でインタレストカバレッジレシオが1未満かつ、設立10年以上の企業」は、安全性が低いゾンビ企業に該当する(国際決済銀行(BIS)が定めるゾンビ企業率の定義による)
インタレストカバレッジレシオから返済能力・安全性を分析したいときは、目安の数字と経営状態の両方をチェックしておきましょう。
業種別インタレストカバレッジレシオ
インタレストカバレッジレシオは、業種によっても平均値が変わります。株式会社東京商工リサーチの令和元年度中小企業実態調査事業報告書によると、製造業と小売業のインタレストカバレッジレシオは次のようになっていました。
製造業の場合、従業員数50人以下だとインタレストカバレッジレシオの平均値が約160倍・中央値が約4倍です。中小企業や小規模事業者規模であっても、利息の返済能力や安全性は高い傾向があります。
一方で小売業は、従業員数50人以下だと平均値が約54倍・中央値が約1.7倍と製造業より低い傾向が見られました。企業規模が大きくなるにつれてインタレストカバレッジレシオも増えている背景から、知名度がないと顧客が入らず営業利益が上げにくいといった製造業にはない事情が垣間見えます。
また、株式会社東京商工リサーチの調査(2023年2月)によると、ゾンビ企業が多い業種として小売業、宿泊業、教育・学習支援業・製造業が挙げられました。新型コロナウイルスの影響が大きい業種については、融資額が多くなった点も背景にあります。
インタレストカバレッジレシオを用いた分析を行うときは、業種ごとの特徴や経済状況なども考慮する必要があると言えます。
インタレストカバレッジレシオ以外の返済能力を見る指標
インタレストカバレッジレシオで判断できるのは、主に事業利益による利息の返済能力です。一方で企業の保有資産の詳細や、資産の流動性(すぐに現金化して支払える能力)などは読み取るのが困難です。
そのため企業の返済能力・安全性を見るときは、インタレストカバレッジレシオと併用して他の返済能力を見る指標を活用し、企業を多角的に分析することが大切になります。
以下では、インタレストカバレッジレシオ以外の返済能力を見る指標をまとめました。
インタレストカバレッジレシオ以外の指標 | 概要 |
自己資本比率 |
|
固定比率 |
|
流動比率 |
|
当座比率 |
|
借入金依存度 |
|
借入金月商倍率 |
|
債務償還年数 |
|
まとめ
インタレストカバレッジレシオは、企業の返済能力や安全性を見る指標です。分析することで投資先の判断基準だけでなく、自社の経営状態も明確になります。
ただしインタレストカバレッジレシオが示す数値は利息に対する返済能力のみであり、経営状態や業種によっても数値は変動します。企業の財務状況を正しく分析・判断するには、インタレストカバレッジレシオ以外の指標を併用し、総合的に確認することが大切です。