中小企業の経営ノウハウ
新規事業の立ち上げ方:成功のポイントを徹底解説
2022年04月28日
新しいことには常に困難がともないますが、中小企業による新規事業の立ち上げは、最も難しい新しいことの1つでしょう。
なぜなら、新規事業を始めるには新商品や新サービス、新しい販売方法などを開発しなければならず、新しい市場を開拓しなければならず、そのために企業は人モノカネを投入しなければならないからです。
それでも必ず成功するわけではないので、経営者は大きなリスクを負うことになるからです。
それでも経営者は、なんとしても新規事業を立ち上げて軌道に乗せ、利益を確保して、新たな経営の柱にしたいはずです。
成功する確率を高めるポイントを徹底解説します。
もくじ
なぜ目的が重要なのか
新規事業では目的が重要になります。なぜなら新規事業への取り組みは困難な道だからです。そして従業員にもその困難な道を歩んでもらわなければならないからです。
経営者は従業員に「なぜ当社が今、新規事業に取り組まないとならないのか。それは●●という目的があるからです」と明確に説明できるようにしたいものです。
<考えられる新規事業の目的>
- 企業規模を拡大するために新規事業が必要
- 社会の要請に応えるために新規事業が必要
- 盛り上がりをみせている新市場に参入するには新規事業が必要
- 下請けから脱却するために新規事業が必要
- 本業に陰りがみえ始めたから新規事業が必要
新規事業の目的には、新たな挑戦に打って出るタイプや、現状からの脱却タイプなどさまざまものがあるので、経営者は自分の気持ちと自社の現状にマッチした目的を探します。
そして従業員が「なるほど、確かに新規事業が必要だ」と感じることができる目的にしてください。
既存事業と新規事業の違い
新規事業とは何かというと、既存事業ではない事業です。
ただ新規といっても、まったくの0から事業をつくる方法だけでなく、既存のソースやシーズを使った事業も新規に数えられることがあります。
例えば建設会社が焼き肉店を始める場合は、0からの新規事業といえます。
しかし、焼き肉店の店舗づくりをしてきた建設会社が自ら焼き肉店を運営することになった場合は、店づくりのノウハウという既存ソースを使っているので0から始めるわけではありません。しかしこれも新規事業といえます。
さらに、リアル店舗で衣料品を売っていた会社がインターネット通販(EC事業)に乗り出せば、これも服を売るという既存ビジネスを使いながらも、初のEC進出となるので新規事業です。
既存事業とまったく関係ない事業も新規事業ですし、既存事業に新たな価値を加えても新規事業になりえます。
経営者は、新規事業を広くとらえて新しい事業に挑戦していってください。
新規事業を立ち上げる方法
新規事業にはさまざまな形態があるので、新規事業を立ち上げる方法にも種類があります。
ここでは次の3つの方法を紹介します。
1)新しく市場をつくる方法
2)既存市場のニッチ領域に進出する方法
3)既存市場に普通に参入する方法
1つずつ確認していきます。
1)新しく市場をつくる方法
最もわかりやすい新規事業の立ち上げ方法は、新しく市場をつくる方法です。
例えば日産自動車は2010年に、世界初の量産型電気自動車、リーフを発売しました(*1)。電気自動車はそれまでも存在しましたがそれは量産タイプではなく、したがって電気自動車市場は存在しませんでした。
日産は新市場をつくる形で新規事業を興したといえます。
新しく市場をつくる方法は得られる果実が大きいのですが、しかし、手間、コスト、時間がかかりリスクが大きいという欠点があります。
*1:https://ev2.nissan.co.jp/BLOG/646/
2)既存市場のニッチ領域に進出する方法
既存市場のなかでニッチな領域を探し、そこに進出する方法も有効です。
ニッチ市場は、大きな売り上げを期待できなかったり、利益を上げるのが難しかったり、顧客が少なかったりするものの、ライバルが存在しないためここで足場を築くことができれば独壇場になります。
ニッチ市場に進出するには「武器」が必要です。強力なネットワーク、詳細な顧客調査、高い生産性などはニッチ市場を切り開く武器になるでしょう。
強力なネットワークがあれば、少ない顧客を確実に集めることができるので事業性が高まります。
詳細な顧客調査を行って顧客の本音を知ることができれば「刺さる」商品や「沁(し)みる」サービスを生み出すことができ、売上高を伸ばせることができます。
そして高い生産性を持っていれば、他社が利益を出せない市場でも、確実に稼ぐことができます。
例えば最近、新興の家電メーカーが元気ですが、これは高級パントースターや超高性能掃除機といったニッチ市場を狙っているからです。
飲食業でも、スープだけを売る店や食パンだけを売る店といったニッチ店が話題を集めています。
3)既存市場に普通に参入する方法
既存市場に普通に参入しても新規事業になる場合があります。先ほど紹介した、建設会社が焼き肉店事業に乗り出すのは、まさに既存市場に普通に参入する方法です。
既存市場はすでにビジネスモデルが確立しているので参入障壁が低いといえますが、しかしすでに先行企業が市場をがっちり抑えていて、自社は最後発組になるのでそこで勝つのは簡単ではありません。
ただ、消費者が既存企業の既存商品・サービスに飽きている場合、目新しさや安さ、豪華さ、ユニークな切り口を持って乗り込めば十分勝機があります。
例えば100円ショップ企業は、既存の雑貨市場に格安という武器を持って普通に参入しました。
また、自動車のホンダが小型ジェット機(飛行機)をつくって販売していますが、これも既存の航空機市場に普通に参入しています。それでもホンダが成功したのは、圧倒的な技術力と高い生産性を駆使して高性能ながらリーズナブルな価格の飛行機をつくることができたからです。
新規事業のアイデアを出すときに使えるフレームワーク
フレームワークとは、考え方の手法といった意味です。
新しいことに取りかかるときは新しい思考が必要ですが、新しい思考を採り入れることは簡単ではありません。そのようなときに、誰かが開発したものの、自分はこれまで使ったことがない考え方の手法を使えば、新しい発想が得られるかもしれません。
そのため、経営者が「新規事業を考えよう」と思い立ったときにフレームワークを使えば、これまで発想できなかったことも発想できるようになるかもしれません。
新規事業のアイデアを出すときに使えるフレームワークはいくつかありますが、ここではマトリクス発想法と戦略キャンバス法の2つを紹介します。
マトリクス発想法で新規事業のアイデアを出してみる
既存ソースや既存シーズをつかって新規事業を始めたいと考えたとき、マトリクス発想法が有効です。マトリクスとは母体という意味で、マトリクス発想法では行と列でつくる表がよく使われます。
例えば、A建設会社が、1)本業(建設事業)の他に、2)チェーン焼き肉店の店づくりに長年携わってきた、3)オーストラリアに支店がある、という強みを持っていたとします。
これをマトリクス表にするとこのようになります。
A建設会社の強みの マトリクス |
本業(建設事業) | チェーン焼き肉店の 店づくり実績 |
オーストラリア支店 |
---|---|---|---|
本業(建設事業) | |||
チェーン焼き肉店の 店づくり |
★ | ||
オーストラリア支店 | ★ |
マトリクス発想法では、強みその1と強みその2を組み合わせたら、何か新しいものが生まれないか、と考えます。
★印は、チェーン焼き肉店の店づくりの実績とオーストラリア支店を組み合わせたビジネスになります。「この2つで何ができるか」と考えます。
オーストラリアから直接牛肉を輸入すれば、焼き肉店経営の経験がないA建設会社が自社で焼き肉店をつくっても、安さとおいしさで勝負できるのではないか、と考えることができます。
マトリクス発想法は簡単です。
自社の強みを1つでも多く取りあげて1行目と1列目に並べていきます。
そして、表のなかの空欄に、行の強みと列の強みを組み合わせたビジネスを埋めていけばよいのです。
例えば自社に、4つの強みA、B、C、Dがあったとします。
強みA | 強みB | 強みC | 強みD | |
---|---|---|---|---|
強みA | ★ | |||
強みB | ||||
強みC | ||||
強みD |
★印に新しいビジネスを入れることができれば、すべての強みを使った新規事業になるでしょう。
戦略キャンバス法で新規事業のアイデアを出してみる
戦略キャンバス法とは、既存の商品やサービスに「増やす」「減らす」「創造する」「取り除く」を加えて新商品・サービスにしていく手法です。
例えば、定食屋が「増やす」を加えると、大盛り専門店になって、若い人の人気店になるでしょう。
格安航空会社のLCCはサービスを「減らす」ことで成功しました。
ディズニーランドは夢の国という世界観を「創造」したことで、長年にわたってテーマパーク業界の頂点に君臨することができています。
「取り除く」で成功したのはスターバックスです。それまで喫茶店でタバコを吸うことはマナー違反でないどころか常識でした。しかしスターバックスは、タバコを吸う行為と喫煙者を排除したことで新しい価値を生み出し、人々の絶大な支持を得ることができました。
スターバックスはさらに、豪華なソファーを置くという「増やす」ことも行なっています。
スターバックスを普通の喫茶店と感じている人は少なく、これは新規事業といえます。
そして「増やす」と「減らす」の両方を実行して驚異的な新商品に生まれ変わったのが、スマホです。スマホは携帯電話にパソコン機能を増やしながら、パソコンより機能の数を減らすことで小型化を実現しました。
スマホは「大きな携帯電話でしかない」のに、そして「小さなパソコンでしかない」のに、世界を変える新商品となっています。
新規事業を成功させるためのポイント
新規事業を成功させるポイントは、ほぼ無数に存在します。そして常に新規事業を成功させている経営者が誕生しているので、成功のポイントは増え続けています。
そこでここでは、市場の観点からみた、新規事業の成功ポイントを紹介します。
成功ポイント1:参入市場の将来性を見極める
新規事業の成功ポイントその1は、これから参入しようとしている市場の将来性を見極めることです。
例えば、アパレル事業の経験がない企業が、これから新規にアパレル業界に進出することを、誰が推奨できるでしょうか。アパレル業界にはユニクロ、しまむら、ワークマン、ZOZOといった「ヒーロー、ヒロイン」が存在する一方で、業界としては衰退していて老舗企業も次々退場しています。
もちろん、特別な想いや強い想いがあれば別ですが、しかし新規事業の成功確率を上げるのであれば、将来性のある市場を選んだほうがよいでしょう。
成功ポイント2:競合企業を研究する
新規事業で参入する市場が決まったら、そこにいる競合企業を徹底的に研究します。「敵を知り己を知れば百戦してあやうからず」です。
競合企業の強みがわかれば、その領域で勝負することを避けることができます。弱みがわかればニッチな領域がみえてくるので、そこに攻め入ることができます。
成功ポイント3:M&Aを視野に入れる
市場には、参入者が多くなるとパイを奪い合う熾烈な戦いが繰り広げられ、参入者が少なくなると多くが潤うという特徴があります。
M&A(合併と買収)は2社が1社になったり、2つの事業が1つの事業になったりするので、市場参入者を減らす効果があります。
そしてM&Aにはさらに、
- 自社の弱みを補うことができる
- 相乗効果を得ることができる
- 顧客、従業員、取引先を低コストで増やすことができる
- 企業規模を大きくでき経営が安定する
などのメリットを得ることができます。M&Aは、市場で優位に立つための優れた手法です。
成功ポイント4:撤退の条件を定める
市場には必ず敗者が生まれます。そして新規事業は安定するまで不安定なので、脆(もろ)いという欠点があります。そのため、新規事業を手掛ける企業は、市場では敗者になりやすい状態にあります。
そのため経営者は「ここまで悪化したら撤退する」という条件を設定しておく必要があります。
新規事業を成功させるにはあきらめてはいけない、という鉄則もあり、これは撤退条件の設定と矛盾するように感じるかもしれませんがそうではありません。
新規事業を立ち上げる決断をした経営者は「あきらめない」ことと「撤退条件」の両方を胸のなかに持っていなければならないのです。
撤退条件には例えば「5年でシェア3%を取れなければ撤退する」「3年で黒字化できなかったら撤退する」「本業の売り上げが30%減ったら新規事業は撤退する」といった内容にすることができます。
撤退条件は、経営者の考え方や企業の体力、市場の状態などによって異なります。
新規事業立ち上げによる成功事例
新規事業の成功事例として、日立製作所を紹介します。
「日立」と聞いて、どのような商品やビジネスを思い浮かべるでしょうか。冷蔵庫、建設機械、化学、金属などでしょうか。
しかし日立製作所は、家電も建設機械も化学も金属も、売却済または売却予定です(*2、3、4、5)。
では日立製作所は「何の会社」になろうとしているのかというと、IT企業です。
仲間だった優良グループ企業を売却する一方で、2021年にはアメリカのIT企業グローバルロジック社を1兆円で買収しています(*6)。さらに、世界中で市場が急拡大している環境事業にも手を広げています。
日立製作所の2021年3月期の連結営業利益は4,951億円ですが、これを5年後の2026年3月期には1兆円にする目標を立てています(*6、7)。
これらの行動や数字から、利益を大幅に増やすために新規事業に果敢に攻めている様子がうかがえます。
本来、巨大グルーバル企業は、その巨体ゆえに大きな変化を起こすのが苦手です。それでも日立製作所がこれだけの変化を起こしているのは、そうしなければ生き残れないからです。
*2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67398070W0A211C2TJ2000/
*3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC135UR0T10C22A1000000/
*4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52601770V21C19A1EA2000/
*5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC308PI0Q1A131C2000000/
*6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC313YR0R30C22A1000000/?unlock=1
*7:https://ssl4.eir-parts.net/Custom/public/qir/6501/c6qjtk3q/hc/pdf/fh2021_ifrs_ja.pdf
こうすると失敗してしまう
ここまで成功する方法を考えてきましたが、ここで新規事業が失敗してしまう理由を考えてみます。
新規事業には失敗しやすい特徴がたくさんあります。
これから進出する市場に既存の強い企業が存在すれば、自社は弱い後発組になってしまいます。
これから進出する市場に誰もいなければ、多くの企業が進出する価値がない市場とみなしているか、進出が難しい市場です。
まったく新しい市場をつくるのであれば、1から顧客をつくっていかなければなりません。
このように新規事業には、足を引っ張る要素がたくさんあります。
そのため、自滅を誘発するような次の要因を持っていると、新規事業が成功する見込みは薄いでしょう。
- 「武器」を持たずに新規事業を立ち上げようとしている
- 資金を確保せず始めてしまう
- 十分な投資をしない
- 決断が遅れてしまう
- すぐにあきらめてしまう
- 目的や理念が不明瞭
- 人材育成をしない
成功するには失敗をしないことです。この7つのことを「しない」ようにしたいものです。
新規事業の立ち上げは新経営サービスまで
経営者様が「当社も新規事業が必要なのだろうか」と考えたら、新経営サービスにご一報ください。
無料相談を利用していただければ、経営者様の想いと、会社様が現在置かれている状況をお聞きして、新規事業が必要なのかどうかや、どのような新規事業が望ましいのかなどを、一緒に考えることができます。
そして経営者様が「よし、新規事業に乗り出そう」と決断されましたら、新経営サービスが伴走いたします。
新経営サービスには、中小企業様の新規事業開発をサポートするノウハウがあります。