資金繰り
新創業融資制度について専門家が徹底解説
2023年04月24日
「創業時の資金繰りに悩んでいるけど、実績や信用がないから融資を受けられない」と悩む創業者は少なくありません。
新創業融資制度は、そうした実績・信用が少ない創業者向けの融資制度です。「無担保・無保証」「申請から融資まで約1か月」「低金利」と、創業者にとって嬉しい内容が揃っています。利用できれば、創業直後の資金繰りを大幅に改善できるでしょう。
当記事では新創業融資制度について、計画策定のプロである弊社新経営サービスが、制度の概要や融資条件、メリット・デメリットなどを解説します。
もくじ
新創業融資制度とは
新創業融資制度とは、国が100%出資している政府系金融機関「日本政策金融公庫」による公的な創業融資(起業・開業時に受けられる融資)です。
日本政策金融公庫は、民間金融機関の取組を補完する目的で融資・情報提供などを行う機関であり、その一環としてさまざまな創業支援を行っています。
創業直後の事業者は、信用度の低さや実績の少なさが原因で融資が受けづらい実態があります。一方で自己資金だけでは、創業時の支出(設備投資費、仕入れ費、人件費、家賃など)などが原因で、資金繰りに苦労するケースが多いです。
新創業融資制度では、そのような起業した間もない事業者でも、無担保・無保証で最大3,000万円の融資を受けられます。また他の融資制度との併用が必要という独自ルールがあります。
新創業融資制度 | 概要 |
利用できる事業者 | 新しく起業する方、または税務申告を2期終えていない方
自己資金要件を満たす方 |
資金の使い道 | 起業や事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
返済期間 | 各融資制度に定める返済期間以内 |
利率/年 | 基準利率2.45~3.45%(要件を満たすと特別利率を適用) |
担保・保証人 | 原則不要 |
令和4年版業務統計年報によると、「2022年における創業にかかる貸付数(創業前および創業後1年以内の者に対する貸付数)」は33,168件、そのうち新創業融資制度を利用したのが28,874件でした。
創業融資に申し込んだ約87%の事業者が、新創業融資制度を利用している計算になります。
新創業融資制度の融資までの流れ
新創業融資制度は、申請から融資実行までが約1か月と非常にスピーディーに進みます。ただし、新創業融資制度は単体利用ができず、新規開業資金や女性、若者/シニア起業家支援資金など他の融資制度と組み合わせなければなりません。
新創業融資制度が融資されるまでのおおまかな流れ、および申請に必要な情報を見ていきましょう。
(1)自社が要件に当てはまっているかを確認する
新創業融資制度は、要件をすべて満たした事業者のみが申請できます。主な要件は次の通りです。
- 法律で定められた中小企業の定義に該当する
- 新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる(事業計画書での審査あり)
- 新たに事業を始める、または事業開始から2期を終えていない(確定申告を2回行っていないというイメージ)
- 自己資金要件である「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」を確認できる、またはその他自己資金の要件を満たす
税務申告を2期終えている場合は、日本政策金融公庫の他の融資制度や、民間金融機関の融資制度を利用してください。
(2)併用する融資制度を決定する
新創業融資制度は、必ず他の融資制度を組み合わせて利用します。返済期間は併用した融資制度と同じになるものの、融資限度額は新創業融資制度の3,000万円で固定です。
他の融資制度に、無担保・無保証人の融資枠を設定するイメージになります。対象となる融資制度は、新規開業資金や女性、若者/シニア起業家資金などです。
審査手続きを進める
要件の確認と併用する制度が決まったら、申請手続きを進めます。おおまかな流れは次の通りです。
- 日本政策金融公庫の窓口にて、必要資料を提出し申請を行う
- 提出資料や面談結果、本社や進出予定地などへの現地調査を基に審査を行う
- 審査に通過すれば、貸付契約の打ち合わせを行い融資が実施される
- 原則として元金均等割賦返済・取引金融機関の口座からの自動振替により返済を行う
提出する書類は次の通りです。
- 【必須】借入申込書
- 【必須】事業計画書
- 会社案内や製品カタログなどの参考資料
- 法人の登記事項証明書(法人の場合)
- 担保の内容がわかる資料(不動産登記簿謄本など、担保を設定する場合)
- その他必要に応じて補足資料(資金繰り計画書や設備資金の見積書など)
各種書式については、日本政策金融公庫の公式サイトにてダウンロードできます。
新創業融資制度を含めて、日本政策金融公庫の融資審査には面談があります。面談時に必要な書類は、日本政策金融公庫から届く郵送物に記載されているので、事前に確認しておきましょう。
指定される書類で代表的なものは、事業計画書作成の基となった売上・経費の計算も用いたもの、預金通帳、自己資金がわかる資料、確定申告書や決算書、借入の返済予定書などです。
新創業融資制度における自己資金と返済期間
自己資金要件は、「創業資金の総額の10分の1以上」です。創業資金の総額とは、これから始める事業にかかる設備投資費用や経費の総額を意味します。たとえば創業資金の総額が2,000万円だと、200万円の自己資金が必要になります。
とはいえ信用面や将来性の面から、実際に融資審査を通過するためには10分の3以上の自己資金が望ましいです。出どころが説明できない資金・借りた資金・記録に残っていないタンス預金などは、自己資金として認められないので注意しましょう。
もし10分の1以上の自己資金要件が満たせなくても、次に該当する事業者の場合は自己資金要件が満たすものと見なされます。
- 現在の企業に継続して6年以上勤めている
- 現在の企業と同じ業種に通算して6年以上勤めている
- 大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上に勤め、その職種と密接に関連した業種の事業を始める
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める
- 技術・ノウハウ等に新規性が見られる
- 新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める
- 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用予定である
参考:日本政策金融公庫|新創業融資制度の「自己資金の要件を満たすものとする要件」
実際に自己資金要件を満たしているかどうかは、日本政策金融公庫の窓口などで確認してもらうのがよいでしょう。
次に返済期間ですが、前述の通り新創業融資制度と組み合わせる融資制度と同じになります。新創業融資制度の対象になる融資制度と返済期間は、主に次の通りです。
新創業融資制度の対象になる融資制度 | 原則の返済期間 |
新規開業業資金 |
|
女性、若者/シニア起業家資金 |
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新事業活動促進資金 |
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一般貸付 |
|
新創業融資制度のメリット
新創業融資制度のメリットは、「無担保・無保証で融資が受けられる」「創業者が利用しやすい内容が揃っている」の2点です。
無担保・無保証で融資が受けられる
起業予定者や起業したばかりの事業者であっても。完全無担保・無保証で融資が受けられるのが新創業融資制度の大きなメリットです。他の創業融資に見られる、「代表者が法人の連帯保証人となる」という条件もありません。
もし任意で代表者が法人の連帯保証人になる場合は、利率を0.1%低減できます。
創業者が利用しやすい内容が揃っている
新創業融資制度は融資を受けづらい中小企業・小規模事業者などをターゲットにしていることから、創業者にとってさまざまなメリットが存在します。具体的には次の通りです。
- 民間の金融機関のような実績や信用重視ではなく、自己資金や事業計画書での審査が受けられる
- 補助金のような厳しい審査、補助金額の低さ、資金使用用途の範囲の狭さなどのリスクが低い
- 利率が約2~3%と低い(民間金融機関は4~5%、長期借入だと7~9%になるケースもある)
- 融資以外にも、日本政策金融公庫の中長期的な視点や公正・中立の立場から、経営課題解決などに役立つ情報を入手できる
- 申請から融資まで1か月前後で終了するので、資金繰りに不安がある創業時には大きなメリットがある
新創業融資制度のデメリット
新創業融資制度のデメリットとして、「他の日本政策金融公庫の金利より高い傾向がある」と「事業計画書の説得力が求められる」の2点が挙げられます。
他の日本政策金融公庫の制度よりも融資限度額が低くなる
新創業融資制度の融資限度額は3,000万円ですが、新規開業資金や女性、若者/シニア起業家資金などの融資限度額7,200万円と比べると低額なのがデメリットです。いずれの融資制度と組み合わせても、新創業融資制度を利用する場合は上限が3,000万円になります。
無担保・無保証の必要がなく、その他さまざまな要件を満たせる場合は、新創業融資制度をあえて適用しないのも1つの手です。
事業計画書の説得力が求められる
日本政策金融公庫の融資制度の審査は、提出する事業計画書の内容が大きなウェイトを占めます。説得力のある事業計画書の作成が求められるので注意しましょう。
たとえば、計画の立案力、計画の実現性、売上と経費の妥当性、市場規模、競合他社に対する優位性、想定リスクとその解決策などが評価されますの。また、利息を含めた融資の返済計画も明確にしておいてください。
もし自社のリソースだけでは事業計画書の作成が難しいと思ったときは、計画策定のプロである弊社にご相談下さい。
新創業融資制度で事業立ち上げ時の資金繰りを改善しよう!
「無保証・無担保」「最大3,000万円の借入」「約1か月のスピーディーな受取」が特徴の新創業融資制度は、資金繰りが厳しくなりがちな事業立ち上げ時には非常に使いやすい制度です。
新創業融資制度の融資審査に通過するには、日本政策金融公庫の審査担当者の評価を得られる事業計画書の作成が必要不可欠になります。
もし事業計画書の作成や事業のアイデア出しなどでお悩みの場合は、経営課題の解決プロフェッショナルである新経営サービスにご相談ください。中小企業診断士などの資格を持つ専門家や経験豊富なコンサルタントが、事業計画書の作成を含めたトータルコンサルティングサービスを提供します。