中小企業の経営ノウハウ
ペルソナ設定が新規事業を立ち上げるときに重要になる理由と設定方法を解説
2022年04月18日
もし自分が新規事業の立ち上げを任されることになったら、何から始めたらよいでしょうか。
やることはたくさんありますが、ペルソナの設定は、新規事業づくりの初期の業務で最も重要なものの1つです。
ペルソナとは顧客層、ターゲット層、ユーザー像のことです。
例えば、新商品をつくって新規事業を展開するなら、その商品を使う人を想像するのがペルソナ設定になります。
新規事業の立ち上げでペルソナ設定がどれほど重要なのか、そして、どのように設定していったらよいのか解説します。
もくじ
なぜ新規事業の立ち上げでペルソナ設定が必要なのか
ペルソナ設定の重要性は、ペルソナを設定しないケースを考えると理解しやすいでしょう。
例えば、ペルソナを一切考えず、多額の開発費をかけて超高性能、大パワーのモーターをつくったとします。しかしそのモーターが、洗濯機に使うには形が大きすぎ、電気自動車に搭載するには効率が悪すぎたら、誰にも買ってもらえません。
ペルソナを設定しておけば、多少性能を落としても小型化することができますし、パワーと落として高効率のモーターをつくることもできます。
ペルソナを設定しない新規事業づくりは無謀といえます。
あの人なら「こう使う」「そういう使い方はしない」といえる
ペルソナを設定すると、新規事業のアイデアが生まれやすくなります。
例えば、新規事業プロジェクトチームのスタッフが集まって、新サービスを考えることになったとします。
このとき「20代前半の就職したばかりの都内で1人暮らしをしている男性ビジネスパーソン」といったペルソナが設定されると、スタッフたちは「彼の仕事は何だろうか」とか「彼はどのような趣味を持っているのだろうか」と想像できます。
そして、新サービスの内容が具体化してくると、「彼ならそれをこうやって利用するに違いない」とか「このような人はこのサービスに1万円も支払わない」といった検討を加えることができます。
ペルソナの設定は顧客のイメージづくりに役立ちます。
新商品も新サービスも顧客が購入するので、新規事業の立ち上げは顧客ありきで進めなければなりません。しかしこれからつくる新商品・サービスには、当然ですがまだ顧客はいません。
ペルソナという仮の顧客を生み出すことで、新規事業案はどんどん顧客寄りのものになっていきます。
ペルソナの設定の仕方
先ほど「20代前半の就職したばかりの都内で1人暮らしをしている男性ビジネスパーソン」というペルソナを設定しましたが、実際に新商品・サービスのペルソナを設定するときは、これではアラすぎます。
実際はもっと細かく設定しなければなりません。
性別、年代、職業、年収、家族構成、心理、行動、地理、人口
ペルソナ設定がいい加減でもよい場合があります。例えば、「とにかく安価なビニール傘」をつくるのであれば、「突然、雨に見舞われて自宅まであと2kmという場所にあるコンビニで傘を買う人」といった設定にすれば十分でしょう。性別も年齢も年収も要りません。
しかし、「雨が待ち遠しくなるほど差すと嬉しくなって、失くすと惜しい気持ちがいつまでも残るビニール傘」を企画する場合、ペルソナを細かく設定しないと、デザインも値段も決まりません。
ペルソナをつくるときは、少なくとも次の9項目は設定しましょう。
- 性別
- 年代
- 職業
- 年収
- 家族構成
- 心理
- 行動
- 地理
- 人口
性別は男性と女性だけでなく、男性的な女性と女性的な男性といった設定も可能です。もちろんセクシャルマイノリティを設定することも可能です。
年代は一般的には20代、60代のように10年刻みで設定しますが、より緻密なペルソナ設定が必要な場合は23歳や65歳といった設定も可能です。23歳に設定すると、22歳でも24歳でもない23歳の特徴を探すことができます。
職業は業界でも職種でも役職でもかまいません。
年収と家族構成は、ライフスタイルに大きな影響を与えるので慎重に設定してください。例えば、年収600万円と設定しても、配偶者がいるのか、子供は何人か、両親と同居しているのか、などによってペルソナの可処分所得が変わってきます。ペルソナの可処分所得は、新商品・サービスの単価を決めるときに重要になります。
心理と行動は、映画や漫画の登場人物を設定するように決めていってください。
「高校で山岳部に入ったことで自然に触れる喜びを知り、社会人になってすぐに大型SUVを購入してアウトドアにのめり込むうちに自然で遊んでいる人は自然を壊していると悟り、森林保護のボランティアに参加するようになった」というぐらい詳しく設定してもかまいません。
そして、そのペルソナはどこに住んでいて、その地域の人口は何人なのか、も考えておきます。ペルソナの住んでいる地域は新商品・サービスの市場になります。その地域の人口は市場規模の推定に役立ちます。
誰にでも合うものは誰も買わない
ペルソナの設定を細かくするメリットは、いわゆる刺さる新商品・サービスをつくるためです。
マーケティングや商品開発の領域において、誰にでも合うものは誰も買わない、という考え方は常識になりつつあります。
多様性を求め、他人と被らないモノ・コトを消費したい人に新商品・サービスを買ってもらうには、「その人」に合ったものをつくらなければなりません。
そして「その人」に合ったものをつくるには、企画段階で「その人=ペルソナ」を設定して新商品・サービスのアイデアを出していく必要があります。
ペルソナの細かな設定は時代の要請であり消費者の要望です。
シーズと市場からペルソナを割り出す
ではペルソナはどのように設定していけばよいのでしょうか。
例えば、居酒屋チェーンを展開している企業が、新規事業として女性だけをターゲットにしたオシャレなバーを始めることになったとします。
このときペルソナは「20、30代の女性」のほうがよいのでしょうか、それとも「40、50代の女性」のほうがよいのでしょうか。
ペルソナを細かく設定するにしても、ペルソナづくりはどこから始めたらよいのでしょうか。
答えは、シーズと市場からペルソナを割り出す、です。
現在展開している居酒屋チェーンの客層が40、50代の男性ビジネスパーソンが多ければ、この居酒屋チェーン企業には若い女性向けのシーズが少ないはずです。そのためペルソナの設定によって、ビジネス上のメリットとデメリットがかなり変わってきます。
この居酒屋チェーン企業が新しいバーのペルソナを20、30代の女性にした場合
- メリット:まったく新しい客層を取り込むことができる。客が若いので長く使ってもらえる。
- デメリット:若い女性向けのシーズが社内にないので、その取得にコストと時間がかかる。若いだけに所得が高くないので客単価を上げることが難しそう。
この居酒屋チェーン企業が新しいバーのペルソナを40、50代の女性にした場合
- メリット:現有のシーズが使えるのでコスト安、時間短縮で新規事業を立ち上げることができる。収入が多い層にリーチできれば客単価を上げることができる。
- デメリット:現有シーズを使うと現行の居酒屋チェーンと似たテイストになり新味に欠ける。外に飲みに出る機会が減る世代。
ペルソナの設定によって新規事業の方向性がかなり変わることがわかります。
注意点:ペルソナの設定を間違えると大変なことに
ペルソナの設定が重要であるということは、ペルソナの設定にリスクがともなうことでもあります。
例えば、「30代の専業主婦、都内在住、高卒、夫と3歳の子供の3人暮らし、賃貸マンション在住」というペルソナを設定して、新しいスポーツ・ビジネスを開発、販売したとします。
このとき、その新しいスポーツ・ビジネスの市場に、そのような女性が存在しなかったらこの新規事業はうまくいきません。しかもそのペルソナに沿って新しいスポーツ・ビジネスを構築しているので、別の客層を取り込むことに苦労するはずです。
ペルソナ設定リスクは、ペルソナを詳細に設定すればするほど大きくなります。
しかしだからといってペルソナ設定を「大づかみ」にしてしまうと、誰にでも合うものは誰も買わない状態に陥ってしまいます。
マーケティングや市場調査を徹底し、その市場に確かに存在する潜在客を洗い出し、それを元に確かなペルソナを形づくっていかなければなりません。