補助金
【事業再構築補助金】要件が緩和されて、採択率UP!? 第3回公募の主な変更点を分かりやすく解説
2021年08月10日
7月30日、事業再構築補助金の第3回公募がはじまりました。
大きな方向性として、要件が緩和され、ハードルが下がった印象を受けています。
第3回公募では、これまでの2回の公募と大きな変更点がいくつかありました。
公募要領などの各種資料も更新されて公開されているので、申請前には必ず目を通してください。
本コラムでは、主な変更点を中心に第3回公募のポイントを出来るだけ分かりやすく解説したいと思います。
まず、第3回公募のスケジュールを確認しておきましょう。
公募開始 | 7月30日(金) |
---|---|
申請受付 | 8月下旬予定 |
応募締切 | 9月21日(火)18:00 |
採択結果発表 | 11月中旬~11月下旬 |
なお、第3回公募締め切り後、さらに2回程度の公募が予定されています。
2回ではなく、2回「程度」と記述されている点が気になるのは私だけでしょうか。
では、主な変更点について紹介していきます。
<第3回公募からの主な変更点>
①「最低賃金枠」の創設
②「通常枠」における従業員数に応じた補助上限額の変更
③「緊急事態宣言特別枠」の継続実施
④「売上高10%減少要件」における対象期間の拡大
⑤新たに取り組む事業の「新規性」の判定の緩和
⑥「大規模賃金引上枠」の創設
早速、ひとつずつ解説していきます。
①「最低賃金枠」の創設
第3回公募の大きな特徴は、最低賃金の引上げにものすごく配慮している点です。
今年度の最低賃金引上げについて、厚生労働省の中央最低賃金審議会は、全国一律で28円という改定目安を公表しました。
昭和53年度に目安制度が始まって以来の最高額になります。
この目安を参考にしつつ、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することになりますが、東京都では目安通り28円引上げて1,041円とする、としています。
昨年度の最低賃金据え置きから一転、今年は大幅な引上げとなりそうです。
厚生労働省発表資料はこちら↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19902.html
その最低賃金引上げを踏まえ、①「最低賃金枠」が創設されました。
この「最低賃金枠」は、間違いなく第3次公募の目玉施策です。
補助上限額は、従業員数の規模に応じて、500万円、1000万円、1,500万円の3パターンとなりますが、条件に合致し、補助額の規模が自社の事業投資規模に見合うものであれば、真っ先に検討する価値があるといえるでしょう。
その理由は何といっても、「補助率が4分の3」(通常枠は3分の2)という補助率の高さと、「加点措置により他の枠への申請より採択率を優遇する」という高い採択率への期待です。
第1回公募の緊急事態宣言特別枠の採択率は、下表のとおり、中小企業で66%、中堅企業で64%もありましたが、第3回公募の「最低賃金枠」はこの採択率を上回る可能性があるということです。
第1回公募全体の採択率42%、通常枠34%(中小企業)・20%(中堅企業)という結果と比べてもらうと、いかに採択される可能性が高いかということをお判りいただけるかと思います。
では、「最低賃金枠」の申請要件を確認しておきましょう。
「業況が厳しく」
「売上減少要件」(後述)はこれまでの公募と同様、全ての枠に共通で課されますが、
追加で
「2020年4月以降のいずれかの月の売上高が、対前年又は対前々年の同月比で30%以上減少している」
という条件が課されます。
要するに、前年や前々年と比べて、ひと月でも売上が30%以上減少している月があればOKということです。
「最低賃金近傍で雇用している従業員が一定割合以上」
つまりどういうことかというと、
「2020年10月から2021年6月の間で3ヶ月以上、全従業員の10%以上の従業員を最低賃金プラス30円以内で雇用している事業者が対象になりますよ」
ということです。
例えば、京都府の中小企業で、雇用する従業員が100人いるとしましょう。
京都府の2021年8月1日時点の最低賃金は909円です。要件は「最低賃金プラス30円以内」ということなので、指定期間内で3ヶ月以上、時間給939円以内で雇用している従業員が10人以上いれば、「最低賃金枠」への申請が可能になります。
最低賃金は、現在の全国加重平均902円から10月には930円程度に引上ることになるでしょう。
過去最高の賃金引上げ幅「28円」に対応するのが厳しい事業主を支援しようというのが、本枠の狙いと考えられます。
②「通常枠」における従業員数に応じた補助上限額の変更
これにはちょっと驚かされました。
これまでの2回の公募において、通常枠の補助上限額は従業員数※の規模に関係なく、最大6,000万円でした。
それが、「最低賃金引上げの負担が大きい事業者(=従業員数が多い会社)」に配慮するという意図で、従業員数が51人以上の事業者の補助上限額が最大8,000万円に引上げられました。
逆に「従業員数20人以下」と、賃金引上げの負担が比較的小さいと考えられる事業者は、上限額が4,000万に引き下げられてしまいました。
第1回、第2回公募で補助額上限の6,000万円を狙ったものの、残念ながら不採択になってしまった従業員20人以下の事業者にとって、これは非常に痛い減額といえます。
※「従業員数」についての補足 ここでいう従業員とは、中小企業基本法上の「常時使用する従業員」を指し、労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」と解されます。これには、日々雇い入れられる者、2か月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、試用期間中の者は含まれません。よって、左記を除いた正社員、パート、アルバイトのことを指すと考えて頂ければと思います。 |
なお、通常枠の補助率は、
- 中小企業:原則3分の2
- 中堅企業:原則2分の1
ですが、
申請補助額が、
- 中小企業:6,000万円
- 中堅企業:4,000万円
を超える部分については、
- 中小企業:2分の1
- 中堅企業:3分の1
に補助率が下がります。
言葉だけでは理解しにくいと思うので、8,000万円の補助額をもらえる場合について図示しておきます。
③「緊急事態宣言特別枠」の継続実施
多少は予想していましたが、これはうれしいサプライズでした。
「緊急事態宣言特別枠は、第2回公募で終了」と第1回公募、第2回公募のタイミングで明示されていたので、今回の継続実施を喜んでいる事業者の方や支援者も多いと思います。
年初から繰り返される緊急事態宣言の発令・延長により、飲食業や宿泊業はまともに商売出来ていないのが現状です。その点に配慮しての継続でしょう。
緊急事態宣言特別枠では、全枠共通の売上高減少要件(後述)に加え、2021年1月から8月のいずれかの月の売上高が対前年比で30%以上減少していることが要件になります。
注意が必要なのは、売上高の減少理由が『令和3年の緊急事態宣言の影響』によるものでなければならないという点です。
なお、緊急事態宣言に伴う「飲食店の時短営業」や「不要不急の外出・移動の自粛」等により影響を受けた事業者に対する措置となるため、要件に合致すれば地域や業種は問われません。
先述のとおり、第1回公募の緊急事態宣言特別枠の採択率は非常に高いものでした。
また、緊急事態宣言特別枠で不採択になってしまっても、加点の上で通常枠で再審査してもらえるのも魅力です。
採択率の高さも引き続き継続されるものと考えられるので、これまでの公募で申請が出来ていなかった事業者の方は、ぜひ狙っていきましょう。
ちなみに、中小企業庁「事業再構築補助金の概要」には「採択件数に限りがある」と明記されていますので、第3回公募で終了してしまうということも考えられます。
チャンスを逃さないようにしてください。
④「売上高10%減少要件」における対象期間の拡大
これは全枠の申請に共通して課される「売上高減少要件」です。
公募要領を見てみましょう。
2つの条件があります。
【条件①】
2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少している。
第2回公募では、対象期間が「2020年10月以降の連続する6ヶ月」と設定されていました。
この部分が、第3回公募では「2020年4月以降の連続する6ヶ月」に変更されました。
コロナの影響が顕著になったのは2020年4月頃だったので、当然と言えば当然の改定で、各方面からの指摘が多かったのだろうと推察されます。
【条件②】
2020年10月以降の連続する6か月間のうち、任意 の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して5%以上減少していること等。
この条件①、②の両方を満たす必要があります。
こちらも文字だけではイメージしにくいかもしれませんので、図を使って例示しておきましょう。
上記の例では、2020年4月以降の連続する6ヶ月の内、2020年4月・5月・6月を任意の3ヶ月として選択し、コロナ以前(2019年)の同3ヶ月と比較しています。
売上高は2019年に比べて56%も減少しているため、「10%以上減少」の要件をクリアしています。
次に条件②を見ておきましょう。
2020年10月以降の連続する6ヶ月の内、2021年1月・2月・3月を任意の3ヶ月として選択し、コロナ以前(2020年1~3月)の同3ヶ月と比較しています。
売上高は2021年1~3月に比べて35%減少しているため、「5%以上減少」の要件をクリアしています。
聡明な皆さんはすでに気付かれたと思いますが、条件②の対象期間「2020年10月以降」というのは、条件①の対象期間「2020年4月以降」に含まれます。
よって、条件②の連続する6ヶ月の内、任意の3ヶ月の合計売上高がコロナ以前の同3ヶ月と比較して10%以上減少しているのであれば、「売上高10%以上減少」要件も同時に満たしているということになります。
<条件①、条件②を同時に満たすパターン>
この場合は、申請時に提出する添付書類を減らすことが可能になります。
⑤新たに取り組む事業の「新規性」の判定の緩和
これもある意味大きな変更点です。
事業再構築補助金を申請するためには、新たに取り組む事業で提供する製品やサービスは、「過去に製造等した実績がないこと」という「製品等(製品・商品等)の新規性要件」をクリアする必要があります。
この 「過去に」 が 「コロナ前に」 に緩和されました。
第2回公募までは、「過去に製造や提供をしたことがない商品・サービスの提供」が求められていました。
「過去」というのは文字通り、「これまでに」ということです。
ただ、「過去に製造や提供をしたことがない」という条件の場合、コロナ禍の環境変化に対応して商品やサービスの開発にスピード感を持って取り組んだ事業者が、補助金の申請資格から外れてしまうということになってしまいました。
これは、コロナのマイナス影響を受けている事業者のV字回復を支援するという補助金の趣旨に反しているといえるでしょう。
そこで、第3回公募からは、「コロナ前に」製造等を行ったことがないという要件に緩和されました。
これにより、コロナの影響が顕著になった2020年4月頃以降に新しい取り組みを行ったことで、これまで2回の公募で対象から外れてしまっていた事業者の方も申請が可能になりました。
スピード感を持って動いた企業は補助金が受けられないというのは、どう解釈してもおかしな話です。
「新規制要件」をクリアできないという理由で、これまで申請を諦めていた事業者の方は、改めて申請を検討してみてはいかがでしょうか。
⑥「大規模賃金引上枠」の創設
主な変更点、最後です。
こちらは「最低賃金枠」と同じく、10月からの最低賃金引上げに配慮し、第3回公募から新たに追加された事業類型です。
人件費上昇の負担が大きい事業者に配慮した類型ということで、従業員数101人以上の中小企業・中堅企業を対象に、8,000万円超~1億円と非常に大きな補助額が設定されました。
この補助額は魅力的です。
しかし、非常にリスキーな側面を持った枠でもあるんです。
どういうことなのか、公募要領を確認しておきましょう。
- 継続的な賃金引上げに取り組む
- 従業員を増やして生産性を向上させる
という2つが要件として記載されています。
さらに詳しく見ていくと、以下のような記述があります。
「“大規模”賃金引上枠」の名前の通り、「賃金引上要件」と「従業員増員要件」が課されており、「賃金引上要件」と「従業員増員要件」は両方を満たす必要があります。
この「賃金引上要件」がくせものです。
というのは、賃金の引上げは、補助事業実施期間だけでなく、その後の3~5年の事業計画期間中、事業場内の最低賃金を“毎年”45円以上の水準で引き上げないといけません。
つまり、1度だけ事業場内最低賃金を45円以上引き上げれば良いのではなく、“毎年” 45円以上の水準で引き上げ続けないといけません。
従業員も101人以上雇用しているので、人件費という固定費負担が年々大きくのしかかります。
なお、「賃金引上要件」と同時に「従業員増員要件」も満たす必要があるとお伝えしました。
こちらの要件では、事業計画期間終了までの間、従業員数を年率平均1.5パーセント以上増員することが求められています。
従業員数101人であれば、1.5%増員すると102.52人となります。
小数点以下は繰り上げないといけないので、102人ではなく、103人。
つまり2人の増員が必要です。
これが事業計画期間中続くことになり、賃金引上げも同時並行で行わないといけません。
なお、本枠においては、賃金の引上げ及び人員の増員が計画通りに進んでいるか進捗をチェックされます。
その際、実現できていなければ、通常枠との差額を返還しないといけません。
大きな補助額は魅力ですが、事業者負担も非常に大きいので、「大規模賃金引上枠」への申請を希望される場合は、充分なシミュレーションを行った上で判断してください。
補助額の大きさだけで飛びつくと、取り返しのつかないリスクを背負う可能性がある枠です。
ちなみに「大規模賃金引上枠」は、第3回公募を含めた計3回の公募で、限定150社の採択が予定されています。
ここまで、第3回公募からの主な変更点について解説してきました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
本コラムのまとめとして、第3回公募の事業概要一覧を以下に貼付しておきます。
赤字はこれまでからの変更点、★マークの付いた枠は私が個人的にお薦めする枠になります。
中小企業診断士として、第1回公募、第2回公募の申請をご支援してきましたが、冒頭でもお伝えした通り、第3回公募は要件が緩和され、採択されやすい方向で改定された印象を受けています。
事業再構築補助金に興味はあったけど、まだ申請をしていなかったという事業者の方は、改めて申請を検討されてはいかがでしょうか。
申請にあたっては、必ず押さえておかないといけないルールやポイント等が非常に多岐にわたって設定されています。
それらを加味していない申請書類は、書類不備として審査すらしてもらえませんので、事業再構築補助金ホームページにて必ず公募要領等の資料をご確認ください。
なお、事業計画の策定においては、「認定経営革新等支援機関※」と一緒に策定することが要件として課されています。
よって、まずは、信頼できる「認定経営革新等支援機関」を見つけ、申請についてご相談されることをお薦めします。
弊社も事業再構築補助金の1次公募において複数の採択実績をもつ認定経営革新等支援機関ですので、お問い合わせフォーム等からお気軽にご連絡いただければと思います。
御社や検討されている新規事業が事業再構築補助金の申請対象になるか、採択される可能性がどの程度見込めそうか等、無料でお答えさせて頂きます。
※認定経営革新等支援機関 中小企業・小規模事業者が安心して経営相談等が受けられるために、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者に対し、国が認定する公的な支援機関のこと。 事業再構築補助金では「事業計画書の確認書作成」や「所見・意見書の作成」および「採択後のフォローアップ」の役割を担うと想定される。 |