補助金
事業再構築補助金『グリーン成長枠』は狙い目の申請枠なのか?
2022年05月18日
事業再構築補助金 第6回公募がスタートしています。
第6回公募からの大きな変更点として、補助額最大1.5億円の『グリーン成長枠』が新設されました。
2050年 カーボンニュートラル実現に向けた、“政府の肝いり”枠と言えます。
しかし、補助額の大きさだけで飛びつくのは危険です。
結論から言うと、「他枠で申請できるなら、他枠での申請をおすすめする」というのが私の意見です。
今回のコラムでは、そのグリーン成長枠について、その理由が分かるように解説していきたいと思います。
もくじ
グリーン成長枠は、他の申請枠と全くの別物
グリーン成長枠は、そもそも「事業目的」からして他の枠と異なります。
また、申請要件や提出書類等も本枠独自となっており、他の枠と毛色が異なる印象を受けます。
<事業再構築補助金 事業目的>
事業再構築補助金の目的として、公募要領では以下のように定められています。
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
対して、グリーン成長枠に関しては、「事業再構築補助金 令和3年度補正予算の概要」という資料において、以下のように言及されています。
特に、ガソリン車向け部品から電気自動車等向け部品製造への事業転換のように、グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者を対象に、従来よりも補助上限額を引き上げ、売上高減少要件を撤廃した新たな申請類型を創設することで、ポストコロナ社会を見据えた未来社会を切り拓くための取組を重点的に支援していく。
コロナ禍で業績を伸ばしている、もしくは維持出来ている企業は、これまで、事業再構築補助金の「対象外」とされてきましたが、「売上高減少要件を課さない」という要件緩和により、本枠に関しては「新型コロナ感染症で傷んだ企業の事業再構築を支援する」ということが主目的ではないということがはっきりと読み取れます。
誤解を恐れずに言うと。ニュアンスとしては、「来るべく『カーボンニュートラル』の実現に向け、企業が迫られる「脱炭素」の取り組み(=事業再構築)を支援」するといったところです。
まずは、この基本を押さえておきましょう。
グリーン成長戦略『実行計画』14分野
グリーン成長枠に申請しようとする事業者は、新事業の内容を自社で自由に決められるわけではなく、「グリーン成長戦略『実行計画』14 分野に掲げられた課題の解決に資する取組」と規定されています。
14分野とは以下を指し、それぞれの分野であれば何でも良いというわけではなく、国が課題と捉えていることを解決する取り組みである必要があります。
出典:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(広報資料)」(経済産業省)
各分野の課題については、本コラムでは割愛させて頂きますが、例えば、「航空機」分野においては以下のような記述があります。
航空機の電動化技術の確立に向け、コア技術の研究開発を推進する。
– 電池、モータ、インバータ等、航空機の動力としてのコア技術については、2030年以降段階的に技術搭載することを目指す。低騒音の電動航空機の実現により、空港周辺住民や乗客にとっての許容性を向上させる。
– 蓄電池や電動モータ等に係る技術開発において積極的に騒音低減を目指し、2050年には、空港周辺住民や乗客にとって、例えば夜間であっても許容性の高い、低騒音の電動旅客機の実現に貢献。
つまり、航空機の動力は電化を進めていくことが伺え、それを実現するための蓄電池やモータ―等の技術開発が課題として捉えられています。グリーン成長枠では、こういった課題の解決につながる事業が求められているというわけです。
その他の分野の課題については、以下のページにおいて、各分野のボタンをクリックすると、課題をまとめた資料が表示されますので、自社の関連する分野について確認いただければと思います。
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (METI/経済産業省)
なお、グリーン成長枠は、「新事業の取組に関連する 2 年以上の研究開発・技術開発」又は、「従業員の一定割合以上に対する人材育成を行うこと」も申請条件に課されており、事業計画書とは別で「研究開発・技術開発計画書」もしくは「人材育成計画書」(いずれもWordで5ページ程度)を追加で提出する必要があります。つまり、現段階で簡単に実現出来てしまうようなレベルの事業は求められておらず、かなり高度な事業を求められているのではないかと推測されます。
追加提出書類 | 記述内容 | 頁数 |
---|---|---|
研究開発・技術開発計画書 |
<研究開発・技術開発の取組内容について>
|
5頁 程度 |
人材育成計画書 |
<人材育成計画について>
|
5頁 程度 |
過去に採択された事業者も申請が可能
グリーン成長枠は、過去の公募で採択された企業、交付決定を受けた企業も対象になります。
つまり、事業再構築補助金で複数回(最大2回)の申請を受けられるチャンスがあるということです。
出典:「事業再構築補助金 令和3年度補正予算の概要」(経済産業省・中小企業庁/2022年2月)
ただし、上記資料の下段「追加提出資料と審査内容」にあるように、過去の公募で採択された事業者には『一定の減点』が課されます。
さらに、「すでに採択されている事業再構築とは異なる事業再構築であること」及び「すでに採択されている事業再構築に取り組みながら、新しい事業再構築に取り組めるだけの人員や資金の余裕があること」を説明する資料の追加提出が求められます。
もちろん、こちらの資料も審査対象です。
まとめ
グリーン成長枠の補助額上限は、【中小企業等:1億円】【中堅企業:1.5億円】と最高額が設定されており、補助額の高さが最大の魅力です。
しかし、補助率は【中小企業等:1/2】【中堅企業:1/3】と他の枠よりも低く、1億円の補助上限額を手にするには【中小企業等:2億円】【中堅企業:3億円】と非常に大きな投資が求められます。
また、事業の成果として求められる付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の成長要件として、他枠が年率平均3%以上増加する計画を求められているところ、グリーン成長枠は年率平均5%以上の成長を求められます。
つまり、補助額は最高ですが、投資額や事業成果のハードルも最高となるため、採択されるための難易度においても最高の枠になるのはほぼ間違いないだろうと予測しています。
よって、
- 売上高減少要件を満たすことができずに、他の枠への申請がかなわない事業者
- 過去の公募で採択され、2回目の事業再構築補助金獲得を目指す事業者
を除いては、グリーン成長枠に沿った新事業を行う場合であっても、出来るだけ通常枠をはじめとした他枠での申請を検討されることをおすすめしたいと思います。