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相続時精算課税制度は事業承継で使えるのか?

事業承継のアレコレ

2023年06月15日

相続時精算課税制度は事業承継で使えるのか?

生前贈与は、現経営者の生前に後継者への財産移転が確定される最も確実な方法であり、
「(1)暦年課税制度」と「(2)相続時精算課税制度」の2つの方法があります。

(1)暦年課税制度

暦年課税制度はいわゆる暦年贈与のことであり、よく知られた一般的な生前贈与方法です。

年間110万円までであれば、贈与税がかからず株式等の移転ができます。

年間110万円を超える部分に贈与税がかかり、金額が大きくなるほど税率も高くなる累進税率になっている為、1年で大きな贈与を行うことはできませんが、長期間にわたって計画的に活用することで大きな効果を得ることができるのが暦年贈与の特徴といえます。

※ワンポイント(令和5年度税制改正)
生前贈与された財産は、将来、相続発生時に相続財産に含まれないため、相続税の節税につながります。
しかし、亡くなる直前に贈与をすれば、その相続税の負担を逃れることができてしまい、これまでは相続開始前3年以内に贈与された財産は、贈与がなかったものとして相続財産に含められました(このことを「持ち戻し」といいます)
その持ち戻しの対象が、令和5年度の税制改正によって、これまでの相続開始前3年以内から7年前に拡大されます(ただし、新たに対象となった4年間の贈与については、合計100万円の非課税枠が設けられます)。

(2)相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、

現経営者が生前に後継者に一気に、自社株式の贈与をしたい場合に検討されることが多い方法です(自社株の早期移転に有効)。

例えば、
<ケース>自社株式の評価額1億円の場合、仮に今回でその全てを後継者に贈与したい
と考える場合、2,500万円の基礎控除があり、それを上回る額については一律20%の税率である為、この場合1,500万円の贈与税となります。
(1億円-2500万円)×20%=1,500万円

暦年贈与は、基礎控除額が少なく(年間110万円)、これを超えれば累進税率により贈与税がかかりますので、大きな金額を一度に贈与した場合には多額の贈与税を負担しなければなりません。
上記のケースであれば、4,800万円の贈与税となります。
(1億円-110万円)×55%-640万円=約4,800万円

このように、相続時精算課税は非課税枠が大きく、この額を超過しても20%の税率なので、比較的多くの自社株を早期移転させることが可能となります。

ただ注意いただきたいのが、多くの経営者で
「自社株式をこの相続時精算課税制度で贈与しておけば、節税になる」
と単純に考えている人も多いことです。

早期に自社株式を移転できるのは間違いないですが、
節税になるかどうか(得かどうか)は、正直なところわかりません。

大きな金額を一気に贈与できるので便利な制度のように思えますが、「相続時精算」という名前の通り、相続発生時には、この相続時精算課税制度を使って贈与した財産(上記のケースであれば1億円)を相続財産に加えて相続税を計算しなければなりません。

そのため、単に税金の支払いを相続発生時に先送りするだけで「節税にならないのではないか?」と戸惑うわけです。また一度、相続時精算課税制度を使うと、暦年贈与制度は活用できなることにも注意が必要です。

※ワンポイント(令和5年度税制改正)
令和5年度税制改正では、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新たに設けられます。
そして、基礎控除内で贈与された財産の額は持ち戻しの対象とはならず、相続税が課されません。

相続時精算課税制度の活用が有効と思われるケース

自社株式が今後、間違いなく価値が上がりする場合には相続時精算課税制度での株式贈与は有効

相続時精算課税制度を利用した場合の財産は、相続時ではなく贈与時の時価で評価されるます(上記のケースの場合、1億円)。このため、相続財産である自社株式の価値が相続時に上昇していることが見込まれるような場合には、相続時精算課税制度を活用した生前贈与を行うことが有効です。

<得するケース>

贈与から相続が発生するまでの間に、間違いなく上がりそうな場合は、財産の評価額を贈与時の低いままで固定させることができるため、結果的に納税額が減ります。
贈与時1億円の株式が、値上がりし相続時には2億円になっていたとしても、贈与時の1億円の低い評価額で計算できるわけです。

<損するケース>

一方で、自社株式が贈与時の価値よりも、将来値下がってしまう場合は損になります。
贈与時1億円の株式が、値下がりし相続時には5000万円になっていたとしても、贈与時の1億円の高い評価額で計算されてしまうわけです。
このように、思わぬ業績悪化等で、将来の相続時に株価が下がった場合には逆効果になり、活用するには難しい判断となるわけです。

 

退職金を支給等で、株価が下がったタイミングでの相続時精算課税制度の活用は有効

上記のように、相続時精算課税制度は、今後株価が高まる場合には損になってしまう制度であるわけですが、例えば、現社長が退任する際、退職金を支給すると一時的に株価が下がります。

その株価が下がったタイミングで相続時精算課税による贈与を実行すれば、株価は退職金の支給により一時的に下がっただけなので、将来は株価が回復する可能性が高くなります。

株価が回復した後に相続が発生しても、贈与時点の低い評価額で相続財産に加算されるため、結果として相続税が節税されることになります。

ワンポイント:令和5年度税制改正により、以下のようなケースでは相続時精算課税制度が有利か

令和5年税制改正により、

  • 暦年贈与を行っても持ち戻しの対象となる期間が大幅に増える
  • 相続時精算課税制度を利用しても贈与税・相続税の対象にならない金額が発生する

ことになります。

例えば、相続開始前の10年間に毎年110万円贈与した場合

相続開始前の10年間に毎年110万円贈与した場合

このように基礎控除内の贈与を行った場合、相続時精算課税制度を利用した方が、税負担が少なくなるように思われます。

この記事の監修・筆者

中谷 健太
中谷 健太
(株)新経営サービス 経営支援部マネージャー
「事業承継&経営革新の専門家」
事業承継士は、事業承継の唯一の資格であり、その専門性は折り紙つき。経営者のハッピーリタイアメントに向けて、事業承継の全体最適・プロデュース(弁護士や税理士をコーディネートする立場)を図る事業承継の専門家です。
これまで後継者不在の会社や、事業不振で廃業を検討していた会社、親族が分裂しかかっていた会社、社長の急逝による緊急対策など、様々なややこしい事業承継を担当。
また事業承継のみならず、補助金や国の中小企業政策も活用しながら、数多くの中小企業の経営革新・組織開発の支援を手掛けている。