経営者保証を外すための基礎知識
2024年02月08日
金融庁はこれまで、経営者保証に依存しない融資の拡大について、取り組みを進めてきました。
特に事業承継時においては、経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒否するケースが一定程度あることから、経営者・後継者双方からの二重保証の解消を各金融機関に対して求めてきました。
そしてそれらへの対応から2023年4月の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の変更による経営者保証の取り扱いについての言及がありました。
もくじ
監督指針の変更による経営者保証に関する変更点
2023年4月の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の変更による経営者保証の取り扱いに関する変更点は、ご覧の3点です。
【監督指針の変更による経営者保証に関する変更点リスト】
1 | 個人保証を徴求する際には、金融機関はその理由を説明しなければならなくなった |
---|---|
2 | 同時に「どうすれば経営者保証を解除できるか」について個別具体的に説明しなければならなくなった |
3 | 金融機関は個人保証を徴求する理由を説明したことを書面又は電子的方法で記録しておかなくてはならなくなった |
1点目の
「個人保証を徴求する際には、金融機関はその理由を説明しなければならなくなった」とは、金融機関が新たに融資をする際に経営者保証を徴求する場合、金融機関は債務者に対し、「今回、これこれこういう理由で経営者保証を徴求させていただきます」と、「何が不足しているために経営者保証を徴求するのか」という具体的な理由を言わなくてはならなくなりました。
2点目の
「同時に「どうすれば経営者保証を解除できるか」について個別具体的に説明しなければならなくなった」とは、ひとつめの理由を伝えた後、「今後、これこれこういう条件をクリアすれば今回の融資における経営者保証を解除できる可能性がありますよ」と、「経営者保証解除のために具体的に何を行えばいいのか」についても伝えなければならなくなりました。
これにより、その条件をクリアした場合、債務者は金融機関に対し、経営者保証解除の申し出をしやすくなったのです。
3点目の
「金融機関は個人保証を徴求する理由を説明したことを書面又は電子的方法で記録しておかなくてはならなくなった」とは、ひとつめとふたつめの説明を行ったことを、きちんと記録として残さなくてはならなくなりました。
この記録を残しておくことで、債務者が経営者保証解除の条件をクリア後、経営者保証解除の申し出があった際に、「言った言わない」の状況を回避できるようにしています。
借りる側にとっては、「どうすれば経営者保証解除ができるのか」ということを具体的に把握できるようになることで、経営者保証解除に向けての取組がしやすくなるのが、今回の監督指針の変更によるメリットを享受することができます。
経営者保証を求められたときに行っておくべきこと
これらのことを踏まえ、金融機関から新たに融資を受けた際に経営者保証を求められたときに経営者が金融機関に対し行っておくべきことは、以下の通りです。
1 | 個人保証を徴求する理由を具体的に聞くこと |
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2 | 経営者保証を解除できるようになるための具体的な条件 |
3 | 個人保証を徴求する具体的な理由」と「経営者保証を解除できるようになるための具体的な条件」の記録 |
金融機関には、経営者保証を徴求した際の説明について記録しなければならない義務がありますが、その記録を債務者に渡すということまでは義務とされていません。
この説明をきちんと記録した上で確認しておくことで、後に「経営者保証を解除できるようになるための具体的な条件」をクリアし、経営者保証解除の依頼を行う際に、「以前、こう説明いただきましたよね」と抗弁することができるようになります。
その記録をとっていなければ、金融機関は「経営者保証を解除できるようになるための具体的な条件」をクリアしたとしてもとぼけてくる可能性もあるからです。
経営者保証を外すための基礎知識「経営者保証に関するガイドライン」
経営者保証を外したいのであれば、絶対に押さえておかなければならない知識があります。
それが「経営者保証に関するガイドライン」です。
「経営者保証に関するガイドライン」の要件をクリアしていないと、そもそも金融機関は経営者保証を外すための交渉のテーブルにもついてくれないからです。
「経営者保証に関するガイドライン」とは、中小企業庁と金融庁の後押しで、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が事務局となり、<経営者保証を提供せず融資を受ける際や保証債務の整理の際の「中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルール」>として策定・公表されたガイドラインです。
法的な拘束力はありませんが、関係者が自発的に尊重し、遵守することが期待されています。
経営者保証を解除するかどうかの最終的な判断は、金融機関にゆだねられているため、このガイドラインを積極的に遵守しようとしている金融機関と消極的な金融機関にわかれています。
経営者保証ガイドラインの3要件
経営者保証を外したい場合は、内部又は外部からのガバナンス強化により 経営者保証ガイドラインの3要件を将来に亘って充足する体制が整備されていることが必要となっています。
経営者保証ガイドラインの3要件の具体的な内容は、以下の通りです。
(1) | 法人と個人の分離 |
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(2) | 財務基盤の強化 |
(3) | 積極的な情報開示 |
それぞれの項目について説明いたします。
(1) 法人と個人の分離
融資を受けたい企業は、役員報酬・賞与・配当、オーナーへの貸付など、法人と経営者の間の資金のやりとりを、「社会通念上適切な範囲」を超えないようにする体制を整備し、適切な運用を図る。
「仮払金・貸付金における社会通念上適切な範囲」というのは、法人から経営者への貸付金・仮払金等が、総資産の1%以下又は100万円以下」と定義している信用保証協会もあります。
役員報酬・賞与・配当なども取り過ぎているとみられると法人と個人の分離がなされていないとみなされます。
(2) 財務基盤の強化
財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である。損益計算書が黒字となっているか、自己資本比率が一定程度確保できているかを見ます。この部分が金融機関の裁量に任されているため、経営者解除に消極的な金融機関は、この財務要件のハードルが高くなっていることが少なくありません。
(3) 積極的な情報開示
融資を受けたい企業は、自社の財務状況を正確に把握し、金融機関などからの情報開示要請に応じて、資産負債の状況や事業計画、業績見通し及びその進捗状況などの情報を正確かつ丁寧に説明することで、経営の透明性を確保する。情報開示は、経営コンサルタントなどの外部専門家による検証結果と合わせた開示が望ましい。とされています。
この経営者保証ガイドラインの3要件を満たすことで、
「事業者は、経営者保証なしで融資を受けられる可能性がある」
「すでに提供している経営者保証を見直すことができる可能性がある」
と、中小企業庁の「経営者保証」に関するサイトには記載されています。