• 事業承継コラム

事業承継が進まない理由

事業承継が進まない理由

我が国の中小企業社長の半数以上が60歳以上。また60歳代の社長の半数近くが後継者不在。

「令和4年中小企業実態基本調査(中小企業庁 令和5年3月)」によれば、
中小企業の社長(個人事業主を含む)の年齢別構成比は、「70歳代」(27.0%)が最も高く、次いで「60歳代」(26.4%)、「50歳代」(22.7%)の順となっています。

そして、中小企業の社長(個人事業主含む)の事業承継の意向について「今はまだ事業承継について考えていない」(41.3%)が最も高く、次いで「親族内承継を考えている」(25.6%)、「現在の事業を継続するつもりはない」(24.0%)の順となっています。

また「全国企業「後継者不在率」動向調査(帝国データバンク 2020年)」によれば、いまだ後継者不在企業の割合は65%程度あり、経営者年齢別の後継者不在企業の割合は、60代では約半数となる48.2%、80代以上でも31.8%と、経営者年齢の高い企業においても後継者不在企業が一定程度存在しています。

全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)

(株)帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)」

現状のままだと 2025年までに日本企業全体の 3 分の 1 にあたる 127万人の経営者が 70歳以上かつ後継者未定になり、廃業が増加した場合には多くの雇用や GDP が失われると経済産業省は試算しています。

また少子化は、後継者不足のみならず、新規創業が可能な母集団が減少することにも繋がり、既存企業の事業承継が円滑に進まなければ企業数の減少に繋がります。

 

事業承継が進まない理由

日本において事業承継が進まない大きな理由としては、私は以下の3点が挙げられると考えています。

  1. 「まだまだ先のことだから」と考えていること
  2. 事業の将来性に不安を感じ、子どもには苦労させたくない
  3. 家族経営を重視する文化が根強く、事業承継が遅れる

 

01.一番の原因は「まだまだ先のことだから」と考えていること

このように、日本の中小企業において事業承継対策が進まない理由として、「後継者がいない」ことが直接的な原因に見えますが、根本原因としては

「まだまだ先のことだから。もう少し様子を見てから」という一言に集約されているように思います。事業承継対策の必要性については、頭では理解できているものの「いつかやろう、そのうちやろう」という意識が多く、結果、意欲的に取り組んでいないです。

 

02.事業の将来性に不安を感じている。子どもには苦労させたくない

また60歳近くの中小企業の社長の声として多いのが「事業の先行きが不安だから、子供たちには大手や安定した企業に勤めておいてほしい。同じ大変な思いをさせたくない」といったものです。

東京商工リサーチによっても、現経営者の事業承継に対する課題では、「事業の将来性」が最も多く、半数以上の企業で課題となっていることが分かります。次いで、「後継者の経営力育成」や「後継者を補佐する人材の確保」など事業承継後の経営体制に関するものが上位となっています。

(株)東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」
(注)複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

とくに新型コロナによる影響によって、会社の立て直し(業績改善)が最優先課題となっており、結果として事業承継対策の優先順位が下がっている(後回しになっている)ようにも思えます。

 

03.家族経営を重視する文化が根強く、事業承継が遅れる

後継者を選定する際の優先順位1位は「親族」(61.1%)であり、次いで「役員、従業員」(25.0%)となっています。多くの経営者はまず「親族」を第一候補として検討し、次いで「役員、従業員」、そして「事業譲渡や売却」、「外部招へい」の順に検討している様子がうかがえます。

(株)東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」
(注)1.事業承継に対する意向について、「事業承継を検討(事業譲渡や売却を含む)」、「事業承継と廃業で迷い」のいずれかに回答した者に対する質問。
2.後継者を選定する際の優先順位について、上位3位までを確認している。

一方で、近年事業承継をした経営者の就任経緯について確認すると、近年同族承継の割合は減少しており、事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外への承継にシフトしてきていることが分かります。

(株)帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)」
(注)「その他」は、買収・出向・分社化の合計値

つまり、後継者は親族(子ども)から選びたいが、希望通りに親族への承継がかなわないケースも増えてきているのです。

日本では欧米と比較して、家族経営や家族の継続が重視される文化が根強く、思うように事業承継が進まないのも大きな原因として考えられます。

 

欧米のおける事業承継

欧米では、日本よりも事業承継対策が進んでいると言われています。

アメリカの国家事業承継センター(National Center for the Middle Market)の調査によれば、中堅・中小企業のうち、次の5年以内に事業を承継する予定の経営者は約40%であると報告されています。

また、欧州中小企業・中堅企業連合(European Association of Craft, Small and Medium-Sized Enterprises)による調査では、中小企業の約60%が次の5年以内に承継を予定しており、約40%が承継に向けた具体的な準備を進めていると報告されています。

欧米で事業承継対策が日本よりも進んでいる理由にはいくつかの要因があります。

  1. 文化や価値観の違い
    欧米の一部の国では、経営者が高齢化し事業承継の必要性が高まる一方、個人の自己実現やキャリア形成の観点から、若い世代が新しい事業やキャリアを追求する傾向があります。これに対し、日本では家族経営や家族の継続が重視される文化が根強く、事業承継が進まないケースもあります。
  2. 法的・規制上の環境の違い
    欧米の一部の国では、事業承継を支援する法的枠組みや税制が整備されています。例えば、相続税の軽減措置や承継計画の作成を奨励する制度がある場合があります。これにより、事業承継の負担が軽減され、経営者が承継を円滑に進めることができます。
  3. 教育や情報提供の差異
    欧米では、事業承継に関する教育や情報提供の充実度が高いことがあります。経営者や後継者に対して、事業承継に関するセミナーや研修、コンサルティングサービスが提供されています。これにより、事業承継に対する知識やノウハウを習得しやすくなり、積極的に対策を進めることができます。
  4. ファイナンスや投資環境の違い
    欧米では、事業承継に必要な資金を調達するための多様なファイナンスオプションが存在します。ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ、銀行融資などが活発に行われ、事業承継のための資金を調達しやすくなっています。

ただし、国や地域によっても事情は異なるため、必ずしも全ての欧米諸国が事業承継対策において進んでいるわけではありません。また、近年日本でも事業承継に関する意識や支援策が進展しており、状況は変化していると言えます。

文責

中谷 健太

株式会社新経営サービス 経営支援部マネージャー
事業承継士/中小企業診断士/認定経営革新等支援機関/補助金コンサルタント

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