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従業員が後継社長になる際、株式を渡すべきか

株価対策・株式譲渡

2023年11月30日

従業員が後継社長になる際、株式を渡すべきか

会社の従業員に株式譲渡する目的としては、以下のようなことが挙げられます。

① 事業承継社員・従業員に事業承継する際に、株式譲渡を実施
② 意識の向上自社の株式の一部を社員・従業員に保有させ、社員に対して会社経営への参画、会社を成長させる意識の向上などを図られます。

株式を渡された社員にとっては、自身がさらに会社の成長につながる働きをすることで、自分が保有する株式の価値も高まることから、仕事に対するモチベーションが上がることが期待できます。

③ 福利厚生の一部会社によっては、福利厚生の一部として、社員・従業員に株式を譲渡するケースもあります。この場合も、社員の仕事に対するモチベーションを高める効果が期待できます。
会社の従業員に株式譲渡する目的

 

内部昇格の次期社長に株式を渡すべきか

次期社長候補として、従業員(内部昇格)とした場合に多い相談が「株式」をどうするかという問題です。

株式を渡そうと考えた場合も、現実的な問題として従業員承継の場合、従業員に資産背景がないことも多く株式の買取り資金の問題もあります。株価が高く、その株式の買取りのために高額な資金の借入までしてとなれば、そこまでして社長にはなりたいとは思わないケースも少なくありません(本人はよくても奥様が反対されるケースがあります。

① リリーフ社長と考える場合

オーナー家の子どもはまだ若く、子どもへの事業承継はまだ選択肢として存在する場合、
将来、子どもが継ぐとなったとき、単独で会社の重要事項を決定できる状況を確保するためには自社株は内部昇格の次期社長に急いで渡さなくてもよいと考えます。

いずれ子どもが3代目社長になったとき、2代目社長(内部昇格の社長)に株を渡していると、株式集約するならば、会社もしくは子どもがそれを買い取る必要性も出てきます(もし退任した社長が、株を売らないと言った場合への対応も必要です)。

このように従業員承継では、株式は引き継がずに経営権のみ譲渡し、経営者としての役割だけを引き継ぐ方法があります。これであれば、定款に従って株主総会や取締役会を開催、後継者を新しい代表取締役に選出して、変更登記を行うだけで手続きは完了します。この場合、株式を引き継がないため、後継者に金銭的負担がかかることはありません。

ただ次期社長に株式を渡さなければ、いわゆる「所有と経営の分離」状態になり、次期社長は株主総会で会社の重要事項を株主の了解なしに決定することはできず、株主の意向を伺いながらの経営になります。

一方で、この状況でいきなり子どもに株式を渡すのも難しいでしょう。生前贈与で非課税の範囲(年110万円)で少数株式を渡していく分にはよいと思いますが、株主総会に影響を及ぼせる一定数(たとえば1/3や2/3)の株式を、まだ会社経営をしていない子どもたちに渡すのは、次期社長にとって面倒なことになるかもしれません。

したがって後継者と正式に決まっていない間は、慌ててことを進めないほうがよいと考えます。こういうケースでは内部昇格の次期社長に交代しても、現経営者はオーナーとして株を持ったままで次期社長をサポートする形をとるべきです。

内部昇格の次期社長は、株式を持たないいわゆる「雇われ社長」になりますが、しっかりと報酬を渡し、また役員退職金も生命保険などを活用して準備してあげることで手厚く処遇してあげればよいと思います。

世間の事業承継支援の現場では、「後継者たるものは少なくとも3分の2以上の株式を持たせないといけない」と当たり前のように言われていますが、それだけが唯一の答えではありません。

オーナー家が全株を保有し、株を持たない社長が経営する会社も実際にはたくさんあります。かといって株を持たない経営者が、オーナー家の一存で退任させられたりトラブルになったということもあまり聞いたことがありません。

 

代表取締役が株主ではない場合のリスクとメリットについて

代表取締役が株主ではない場合のリスク代表取締役が株主ではない場合の代表取締役のリスクは、解任されるリスクです。

代表取締役は、株主総会において議決権の過半数の賛成があれば解任をすることができます。

また、解任はいきなりされない場合も、自身が株を持っていないと、大株主の意見をどうしても優先せざるを得なくなります。

代表取締役が株主ではない場合のメリット会社が危機に陥った際に自分の身を削る必要がないというメリットがあります。

会社が倒産危機に陥った場合、株を持っていない代表取締役に関しては、業績不振によって解任されることはあっても、自身の資産が大きく減少することや、借金を背負うリスクはありません。

代表取締役が株主ではない場合のリスクとメリット

 

② 内部昇格の次期社長に株式を渡す場合

従業員を後継社長に株式を渡すことは、これからの自分(後継社長)の働きによって企業価値が向上した場合、株価上昇に伴う利益を享受でき、モチベーション向上に繋がったり、重要な意思決定も都度オーナーに同意を求めることなくスピーディーに進めることにも繋がるでしょう。

注意すべき点としては、従業員を後継社長に指名し、あらかじめ対策をしておかないと、その社長が退任した場合や相続が発生した場合、社外に株式が分散することが考えられます。
そういった問題が発生する前に、事前に準備しておくことが重要です。

具体的には
事前対策として、以下の2点が考えられます。

(イ) 株主間契約を結ぶ

株式を譲渡する後継社長との間で、役員退任時には株式を自身もしくは自身が指定する者へ売り渡す旨の株主間契約を締結しておけば、後継社長から株式を買い取ることで株式の回収ができます。株主間契約の内容は自由に決めることができますが、契約であるために、相手が契約に応じない場合にはこの方法を採ることができません。

(ロ) 取得条項付株式を活用する

種類株式の一種である「取得条項付株式」を活用し、株式を保有する従業員や役員が退職・退任した際に、その者が保有する株式を会社が強制的に買い取ることができます(会社法108条1項6号)。

 

後継者に株式を買い取る資金がない場合

① 分割払いで株式を買い取る

経営者と後継者の双方で合意すれば後継者は分割払いで株式を買い取ることができます。後継者はまとまった金額を用意する必要がなくなるため、金銭的負担の軽減が可能です。

② 買い取り資金の融資を受ける

後継者が金融機関などから融資を受ける方法もあります。例えば、日本政策金融公庫では、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)にもとづく認定を受けた個人に対して融資を行っており、後継者が経営者となった後、役員報酬や配当金収入から融資を受けたお金を返済することができます。

③ MBO

後継者が自己資金を元手に新法人を設立し、その法人が金融機関から借り入れを行うMBO(Management Buyout)スキームを使う方法も可能です。新法人は借り入れた資金で現経営者から株式を購入し、最終的には新法人と後継者が引き継いだ会社を合併させ、会社が事業収入で得るキャッシュフローから金融機関に返済します。

④ 自己株式取得

会社が自己株式の取得を行って後継者の負担を軽減することも考えられます。後継者が現経営者から株式を買い取った後、会社がその一部を買い取ることで、後継者は現金を得られます。

⑤ 無償で譲渡

経営者が後継者に株式を無償で譲渡する方法もあります。もちろんその場合、現経営者は対価を得ることができません。

但し注意すべきは、経営者に配偶者や子供などの法定相続人がおり、経営者の財産の大半が株式であるような場合は、必要な株式を贈与すると親族の遺留分を侵害してしまい、揉め事になる可能性があります。

 

この記事の監修・筆者

中谷 健太
中谷 健太
(株)新経営サービス 執行役員
「事業承継&経営革新の専門家」
事業承継士は、事業承継の唯一の資格であり、その専門性は折り紙つき。経営者のハッピーリタイアメントに向けて、事業承継の全体最適・プロデュース(弁護士や税理士をコーディネートする立場)を図る事業承継の専門家です。
これまで後継者不在の会社や、事業不振で廃業を検討していた会社、親族が分裂しかかっていた会社、社長の急逝による緊急対策など、様々なややこしい事業承継を担当。
また事業承継のみならず、補助金や国の中小企業政策も活用しながら、数多くの中小企業の経営革新・組織開発の支援を手掛けている。