従業員への事業承継対策「株価と後継者の意欲」
2024年09月11日
もくじ
従業員承継のメリット・デメリット
少子高齢化社会の加速、悪質なM&A業者の増加に伴い注目度が増している事業承継先が従業員です。
従業員承継は会社のことを良く理解している従業員に承継できることが最大の利点であるものの、親族内承継と比較して難易度が高いことが特徴です。
以下に、従業員承継におけるメリット・デメリットを簡単に記載します。
従業員承継のメリット
- 後継者候補の選択肢が広がる
少子高齢化の中で、子供が少ない、親族が少ないケースも多くなっています。そのような中、親族内承継で「必ずしも優秀な後継者がいない」こともあります。複数の従業員が後継者候補となり得るということは、それだけで企業の存続可能性に大きな力になります。 - 自社の理解
自社の企業文化やノウハウを熟知しており、実務の承継が行いやすいです。
経営権の交代後も、企業の価値観や文化を維持しやすいことが特徴です。
他の従業員や取引先のことなども配慮をした経営が可能です - 従業員のモチベーション向上
従業員から社長になれるというキャリアパスができることでモチベーション向上に繋がります。
これにより、経営への参画意識が向上します。 - 取引先との関係維持
社外の第三者を受け入れるより取引先の理解を得やすいことが特徴です。
顧客と知己の場合も多く、取引関係を維持しやすいです。
従業員承継のデメリット
- 後継者の資金調達
従業員は資産背景に乏しいケースが多く、株式購入資金が不足しがちです。融資や事業承継税制の活用など、様々な資金調達方法を検討する必要があります。 - 経営権の争い
後継者候補が複数いる場合、経営権の争いや派閥化の恐れがあります。
特定の従業員を優遇しすぎると、他の従業員からの反発が生じる可能性があり、透明性の確保や納得性のある説明が重要です。
なぜ従業員承継が進まないのか?その対策は?
従業員承継はメリットが大きいものの、実際に実施を行っている企業は非上場企業においては、2割程度と言われています。
また、後継者不在企業にとって、従業員への承継は考えやすいものの、前に進めることができていない企業が多く、実態として未だ日本企業の約半数が後継者を決めかねている状況です。
では、なぜ従業員承継が進まないのか、そのもっとも大きな要因は株の買取資金の問題です。
従業員承継の最大の壁は株価と株式譲渡
日本商工会議所の「事業承継に関する実態アンケート」によると、事業承継における最大の障壁・壁となっているものは「後継者への株式の移転」です。
また、従業員承継において、実際に株式を移転させる際の障害は「買取資金の確保」となっています。
従業員は経営者と異なり資産背景が弱いことが多く、数億円単位の資金を準備することは実質困難です。
株価対策と資金対策が承継の難易度を上げる大きな要因となっています。
一般的に株価を下げるには、以下の施策が考えられます。
- 退職金の支給 ⇒利益の圧縮
- 設備投資の実施 ⇒ 減価償却費の計上
- 含み損のある資産の売却・処分 ⇒ 損失計上による利益圧縮
- 配当金の減額・無配
- 保険の活用 ⇒退職金積立など損金算入が可能なもの
- オペレーティングリース ⇒減価償却費の計上
- 不動産小口化商品の購入 ⇒減価償却費の計上
- ホールディングス化(持株会社化)による将来の株価抑制
各項目の詳細についてはこちらの無料ダウンロード資料に記載しています。
従業員承継と相性が良い株式対策
上記のような、株価を下げるという施策とは別に、発行株式数自体を増加させることによって、従業員が株式を買い取る負担を減らすという方策があります。
いわゆる、第三者割当増資のことです。
中小企業にマッチする第三者割当増資は主に以下2つです。
持株会の活用
持株会とは、自社の従業員や役員に安定株主となってもらい、経営の安定化を図ることです。
実務的には、組合を社内で組成して運用する形になります。
一般的には、「従業員持株会」と「役員持株会」の2つの形式があります。
「従業員持株会」
従業員が自社の株式を購入し、所有することを奨励する制度です。
<メリット>
- 従業員の経営への参画意識の向上
- 奨励金による従業員の福利厚生の一環になる
- 安定株主が増え、株式の分散を防ぐことができる
<デメリット>
- 業績悪化時の資産価値減少リスクがある
- 企業側は運用にあたり、管理コストが発生する
「役員持株会」
従業員持株会の範囲を役員に限定した組合であり、既に従業員持株会がある場合は、別個に組合設立の必要があります。
奨励金は支給できないため、福利厚生での目的ではなく、経営者意識の高揚や事業承継対策で用いられます。
<メリット>
- 役員の経営への参画意識の向上
<デメリット>
- 業績悪化時の資産価値減少リスクがある
- 企業側は運用にあたり、管理コストが発生する
中小企業投資育成株式会社の活用
中小企業投資育成株式会社は大阪や東京などエリアで管轄が異なります。中小企業やベンチャー企業の成長を支援する公的機関です。
<メリット>
- 経営干渉をせず、長期安定株主として期待できる
- 投資育成が資本に参画することで株価を大きく下げられる可能性がある
<デメリット>
- 投資金額に対して、一定の配当が必要であり、利益が流出する
目安6%~だが、投資金額や企業の状況によって変動する
従業員に継がせるために必要なこと
様々な経営者とお会いする中で、よく相談されるのが、「従業員(後継者候補)から中々継ぎたいと言ってくれない」という相談です。
経営者から承継してほしいという話しをすることで、断られてしまうのではないか、という懸念もあり経営者から言い出すことが中々難しいというのが実態です。
一方で、従業員側では、今後の経営者が決まっていない状態は不安であり、現経営者に早く後継者を決めて欲しいと思っていることも多いです。
それでは、従業員に会社を継ぎたいと思わせるにはどうすれば良いのか。
ポイントは以下の3点だと考えます。
- 期待感
成長の余地がある企業であることを意識させる
成長の余地が無く、業績の悪化が見えている状況では、リスクが大きく継ぎたい人は中々出てきません。継いだ後に経営責任を負うのは後継者であるため、後継者がまだまだ会社を伸ばせると思うことが重要です。
中長期のビジョンや経営目標を後継者候補や幹部と一緒に作成する
具体的な取り組みとして、中期経営計画を策定する方法があります。
重要なのは、成果物ではなく、計画に後継者の意思を込めることです。どんな会社にしたいのか、そのために自分が何を為すべきかを考えさせるプロセスに時間を掛けるべきです。 - 安心感
経営者は一歩間違えれば自己破産のリスクのある職種です。そういう意味では、リスクに尻込みする後継者も多く、できる限り障壁を排除する必要があります。
・経営者保証の解除
・株価の低減
・後継者の社長就任期間決める
特に従業員承継では、定期的に社長が交代していくケースが多く、目安となる期間や年齢をある程度決めておくことで、従業員は安心して経営に従事することができます。
経験上、ベテラン社員にとって、「5年だけ社長をやって欲しい」「60歳まで社長をやって欲しい」など期限付きの社長のポストはリスクも低く、断られるケースは比較的少ないです。 - 自信
経営者としてできる自信を付けさせる。
成功体験を積ませることで経営を担えるという自信を持たせることが重要です。
従業員や業績を守るというプレッシャーを力に変えるためには不可欠な要素です。
逆に言うと、自信のない経営者は他の従業員を不安にさせてしまうため、後継者としては不適格であるとも言えます。自信をつけるために、経営者は厳しい言葉だけではなく、時には称賛をすることも必要です。