最期まで株を手放さない会長
2026年01月07日
先代にとって、自社の株式は単なる「資産」ではありません。
会社が人生そのものであるオーナー経営者にとって、株式を手放す難しさは当人にしかわかりません。
そこには会社への思い入れをはじめ、様々で複雑な想いが入り乱れています。だからこそ、「生涯、オーナーとして会社を見守り続けたい」と考える経営者に出会うことがあります。
しかし、その「会社への愛情」が、残された後継者や社員からは「執着」に見えてしまい、事業承継がうまくいかないこともあります。
もくじ
株式の保持は当人の正当な権利
株を手放すかどうかは株主次第です。これは株主として認められた権利であり、基本的には会社や後継者が強制的に手放すことを強要することは困難です。
したがって、今すぐに渡すのも死ぬまで持っておくのも株主の自由な意思です。
しかし、会社に関与しない相続人(オーナーの配偶者や子)にとって承継準備のない高額な株式は、将来的に大きな負担となってしまう側面があるのも事実です。
株式を渡さない根本原因は後継者にある?
先代が株式の譲渡をためらう背景には、大きく分けて2つの心理的要因があると考えられます。
①「後継者に不安がある」「先代が追い出される懸念がある」などの不安
後継者を信頼しきれておらず、経営能力に不安がありいざというときに経営権を確保できるよう株式を保持しておくというケースです。
この場合、後継者は先代に認めてもらうために努力をする必要があります。
後継者は努力をしている「つもり」でも、先代にとっては足りない、見えていないという状況であることが多いです。
このような場合、後継者がいくら先代を説得しても口ではどうにもなりません。まずは現状を受け入れるしかありません。
その上で、認めてもらうために経営に邁進する必要があります。
株式のことを一旦忘れ、今できることに集中して成果を上げることで自ずと株式を渡す方向になっていきます。
株式の話しで口論になるくらいであれば、ぐっと堪え、自分に不足があるからと努力を続ける方が建設的です。
②「株を手放したくない」という感情
先代にとって会社は我が子にも等しく、他人に渡したくないという感情があります。
この感情は、誰よりも会社のことを考え、成長させてきた先代に芽生えることは当然です。
この感情を否定すべきでは無いと私は思います。
この場合、後継者に不足があるわけではなく、先代に折り合いがついていないという状況のため、後継者に落ち度はありません。
ここで強引に株式譲渡を推し進めると十中八九喧嘩になります。先代と後継者が喧嘩をすると会社に悪影響を及ぼし、従業員のためになりません。
後継者は、ここで「自分のために株が欲しい」という選択ではなく、「従業員のために踏みとどまる」選択を取るべきです。そして、先代の心の折り合いがつくまで耐える必要があります。
高額な株式は相続人や次世代の負担になる
①納税資金の不足
会社に関与していない配偶者や子供にとって、非上場の自社株は換金が難しい一方で、税務上の評価額が高くなる傾向にあります。
評価額が数億円に達していても、相続人の手元に現金がなければ、彼らは自分の貯金や資産を売って納税しなければなりません。
経営に関与していない相続人が、多額の相続税を個人の資産から捻出しなければならない状況は避けたいものです。
②会社の資金繰り悪化
相続人が納税のために会社へ株式買い取りを求めた場合、会社は多額の資金を準備しなければなりません。
相続時に会社の経営状況が良ければ可能性はありますが、新たな投資や業績停滞のタイミングと重なると、購入できないこともあります。
もし無理に買い取れば、設備投資や運転資金を圧迫し、会社の成長を止めてしまいます。
③従業員の心情悪化
会社で稼いだ利益は今の経営者や次世代のメンバーが努力し稼いだものです。
その利益を、会社に関与していないオーナーの配偶者や子に多額に渡ることに関して、従業員から反発の声が出ることも少なくありません。
良い感情は芽生えず、結果的にオーナー家との溝が深まります。
④第三者介入のリスク
会社でも買い取れずに納税資金が不足する場合、第三者に株式を売って資金を作らざるを得ません。
中には、相続のタイミングを狙って、株を買いたいという第三者が現れ、相続人がよく分からずに売ってしまうこともあります。
そして、会社に高額の買い取り請求をして最終的に会社が迷惑を被ることもあります。
株を手放すことも最期の大きな仕事
「最期まで責任を持つ」ということは、当人が亡くなった後のことまで道筋を立てておくことでもあります。
承継の問題を整理しておくことは、残されるご家族や社員への最大の配慮と言えるでしょう。
亡くなるまで株式を手放さずにいると、亡くなった後の責任を周囲の人間が取らなければなりません。
これは、事業承継の問題を先送りしているに過ぎません。
「自分が亡くなったとしても残された家族や会社経営に支障がないか」、今一度確認することも必要でしょう。
こういったケースにおいて、株式の承継は感情での議論にならないように第三者を交えて落としどころを探った方が上手くいくでしょう。
私が支援を行うときは、例えば3分の2以上、過半数以上など一定のラインを定めて、心の整理がつくまではそのライン以上の株式を手放さないことが多いです。
当人にとって渡せるラインを決めることで少しずつ承継を進めていきます。
合わせて、3年後までに株式の100%を後継者に移すなど、中期的なスケジュールを設定して、最終的にいつまでに株式を渡すのかを決めます。
先代と後継者が合意することで、承継のスケジュールを明確にします。
心の整理と実務の整理を並行して進めることで、後継者やオーナーのご家族は将来の見通しが立ち、安心して事業に集中できるようになります。
株について悩んでおられる方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。



