後継経営者/経営幹部に選ぶべき人とは? ~今の能力だけで選ぶと失敗する~
2025年05月21日

企業経営において「後継者選び」は最大級の経営判断のひとつです。事業承継においても、この「後継者選び」からスタートします。
後継者選びでは「自分の子どもが良いのではないか」「兄と弟を一緒に入れて、その後判断しよう」「娘婿が良いのではないか」「いや、社内でトップセールスの営業部長を後継者に」等、そのような検討がなされるケースが多く見受けられます。
誰を選ぶかによって、会社の未来は大きく変わるでしょう。そういった意味では、現経営者には「後継者を選ぶ、見極める眼」が求められています。
しかし「能力が高いから」「家族だから」「人気者だから」といった一面的な判断で後継者を決定した結果、企業が方向性を見失ったり、内部対立が起きたりする事例は後を絶ちません。
今回のコラムでは、私どもが過去1,400名以上の後継経営者、経営幹部といった企業リーダーを輩出してきた経験値(失敗からの反省も踏まえ)から、「後継経営者」だけでなく、次世代を担う「経営幹部」の人選について考察したいと思います。
もくじ
経営幹部の人選で見極めるべき重要なポイント
まずは経営幹部の人選です。
皆さんの会社において経営幹部に上がる社員というのは、どういう人でしょう?
- 社内で相当の実績を上げた人、ベテラン、やり手の社員
そういう人が普通、経営幹部として登用されるのではないかと思います。
本当はそうなんでしょうけども、そこで見間違えてはいけないのは
「現在の彼(彼女)の能力レベルだけで判定したら、失敗する」
ということです。
なぜかというと、その人の能力が今ピークに来ているので、そこから先の伸びしろがないという人が多いのです。取締役にした途端に「俺はもう良くここまで頑張ってきた」という具合に、のんびりしてしまい、いわゆる「あがり」感覚になってしまって、そこで能力を止めてしまうわけです。
私どもの研修(経営者大学など)に送り込まれてきた経営幹部(受講者)を見ると、その「あがり」感覚になってしまって、能力を高めることを止めてしまっている人が多いことに気づきます。
社長からすれば、その人達にもこれから常務になって、専務になって、それこそ社長にでもなって欲しいくらいの想いがあるわけですが、成長意欲を止めてしまっているのです。
成長意欲が止まってしまった人が経営幹部になり実権を握ると、会社全体の成長が落ちることに繋がります。「手習いは坂に車を押す如し」のように、少しでも手を緩めれば、車は坂を転げ落ちてしまいます。
経営幹部の人選を見極めるポイントの一つは「己の能力を磨き続ける姿勢があるか」が大事でしょう。
多少、能力が低くても「これからまだまだ俺は勉強したい、伸びていきたい」という思いを持っている人を抜擢していった方が会社に好影響を起こすでしょう。
後継経営者にも、経営幹部にも共通するもっと大事なこと
今の能力よりも大事なことが「成長意欲」でした。そしてもっと大事なことがあります。
人材を見るときは三つの項目があると言われます。
「能力」と「行動力」、そして「人格」です。
これは掛け算だとも言われます(「能力」×「行動力」×「人格」)。
例えば「能力」は60くらいだけども、「行動力」は80くらいあるとなれば、
60×80=4800
これに「人格」が掛けられます。この人格は「プラス(+)」か「マイナス(―)」かとなります。
人格がプラス(+)であれば、4800×(+)=+4800になりますし、マイナス(-)であれば4800×(-)=-4800となるわけです。
ではこの「人格」とは一体何のか?
私はこの「人格」とは「思いやり」ではないかと考えます。
つまり「自分は何のために仕事をするのか?」
これが自分を守るため、自分が稼ぐ・儲けるため、という風になると、これがマイナスの人格に打ちかえってきます。
この能力・行動力を、部下のため、お客様や仕入先のため、そういう周りのために仕事をしているかどうかが大事であり、それがプラスの人格となります。
「自分のためなのか、それとも周り(他人)のためなのか」
それがより大事な見極めポイントとなるでしょう。
後継経営者は、突然型の事業承継の場では、実務能力のない奥さんや子どもが就任することも多く見受けられます。
そのほとんどのケースで実務能力や経営能力は不足し、経営幹部よりも劣っていて当然です。
しかし、その実務能力に劣る後継経営者を盛り立てて、組織が結束し、会社を成長・発展させるケースもまた多くあります。
とくに後継経営者にとっては、今の能力よりも「人格」です。実務能力がなくても、人徳で経営はできます。
「自分のことよりも、周り・他人のために生きれるか」
やはり、このポイントは見極めていきたいところです。
現場主義かどうか
会社の利益の源は現場にあります。
創業者であっても、現場やお客さまに育てられてきたはずです。
わがままをいうお客様は一人や二人ではなく、相当無理な注文をつけるお客さまもいたことでしょう。
そして、そのお客様の要求に必死になって対応してきたことで強くなってきたはずです。
後継者は、経営者になることを期待され、大学などで体系的な経営の勉強をしてきている後継者も少なくないです。
しかし、会社で何かと問題が起こったときに、その時に学んできた机上の経営セオリーや、部下の報告やデータだけで判断するような人間ではいけません。
「迷ったら現場に戻り、そこで答えを見つけてくる人間かどうか」
その後継者候補、経営幹部候補はそういう現場主義感覚を持っているかどうかも重要です。
そういう意味では、後継者教育も、最初はお客様と直に接する仕事に就かせることが求められます。
現場ではどんな問題が、どのようにして起こり、どのように解決されていくのかについて五感で感じとらせることが社内教育の最初の一歩です。
トヨタ自動車の豊田章男氏も、創業家出身ながら、その実力を疑問視された時期があったようです。しかし、章男氏は徹底して現場を知り、経営理念である「カイゼン」や「現地現物」を体現し、リーマン・ショックや品質問題など幾多の危機を乗り越えました。
後継者選びとは「誰を育てるか」
これまでお伝えしてきたように、後継者は「完成された人材」である必要はありません。
現時点の完成度(能力)よりも、これからの高い成長意欲を持ち、他人のために仕事をする人格を持っているかどうかが重要と考えます。
江戸幕府の創設者・徳川家康も、三代将軍に孫の徳川家光を指名しました。
実は、家光は幼少期に吃音があり、対して弟の忠長は聡明で人望・人気もありました。そのため、周囲では忠長を推す声が多かったようです。
しかし家康は、家光の「責任感」と「ぶれない性格」に将来性を見出し、家光を政治の現場で若いうちから鍛え、育んできました。そして最終的に家光を選び、将軍として任命したのです。
家光は在位中、参勤交代制度の確立や大名統制の強化を進め、幕藩体制を盤石なものとしました。その後の約260年の平和は、この決断の的確さに支えられていたとも言えるでしょう。