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事業承継の退職金トラブル|なぜ後継者と先代は対立するのか

事業承継のアレコレ

2026年04月13日

事業承継の退職金トラブル|なぜ後継者と先代は対立するのか

最近、事業承継に関するご相談が明らかに増えてきています。
その中でも、現場で頻繁に起きているのが「退職金」をめぐる問題です。

これは単なる報酬の話ではありません。むしろ、これまで表面化していなかった承継の歪みやすれ違いが、一気に噴き出す引き金のようなテーマだと感じています。

背景にあるのは、昨今の業績環境の変化です。

かつてであれば問題なく支払えていた水準の退職金が、現在では財務的に大きな負担となっているケースが増えています。実際に、税理士の立場から見ても「この金額は現実的ではない」と判断せざるを得ない場面が少なくありません。

利益は出ていてもキャッシュがない、あるいは将来投資とのバランスを考えると簡単には出せない――そうした状況が多くの企業で起きています。

一方で、先代経営者は多くの場合こうおっしゃいます。
「退職金は後継者が決めればいい」と。
自ら具体的な金額を主張することはありません。

しかし、その言葉の裏には、長年会社を支えてきた自負や責任感とともに、「最低でもこのくらいは」という暗黙の基準が存在しています。できれば規程に基づいた満額を、という思いも自然なものです。むしろ、それだけの時間と重責を担ってきたからこその感覚とも言えるでしょう。

そして、後継者から提示された金額が、その基準を下回ったとき。
それまで水面下にあった問題が、一気に顕在化します。

表面的には、単なる金額の乖離です。

しかし本質はそこではありません。

先代の内側で起きているのは、「会社の状況は理解している。それでも、自分はその程度の評価なのか」という感情です。
つまりこの問題は、金額の問題であると同時に、承認の問題でもあるのです。

この構造を見誤ると、議論はかみ合いません。後継者は合理性をもって説明します。
財務的に難しいこと、会社を守るために必要な判断であること。しかし先代は納得しません。

なぜなら、見ている論点が違うからです。後継者は「払えるかどうか」を見ており、先代は「どう評価されているか」を見ています。
このズレが埋まらない限り、どれだけ正しい説明をしても、関係はむしろ悪化してしまうことがあります。

では、どうすればよかったのでしょうか。

第一に、退職金を「最後に決めるもの」にしないことです。

承継の終盤で初めて向き合うテーマにしてしまうと、感情と現実が正面衝突してしまいます。
むしろ、承継プロセスの早い段階から方向性を共有し、段階的に認識をすり合わせていくべき事項です。時間をかけて合意形成を図ることで、衝突は大きく減らすことができます。

第二に、「誠意の示し方」を設計することです。

仮に満額を支払えないとしても、それで終わりではありません。
どのように評価しているのか、どのように報いたいと考えているのか。その姿勢が伝わるかどうかで、受け止め方は大きく変わります。
分割支給、役員報酬での調整、関与の仕方の見直しなど、方法はいくつもあります。しかし本質は手段ではなく、「どう向き合ったか」にあります。

退職金は、単なるコストではありません。それは過去に対する最終的な評価であり、同時に未来への橋渡しでもあります。
ここで関係がこじれてしまうと、資金以上に大きなものを失います。それは信頼や尊敬といった、目に見えない資産です。

多くの現場を見てきて感じるのは、退職金でもめる会社は、実はそれ以前からすでにすれ違いが起きているということです。
退職金は原因ではなく、結果として表に出てきているに過ぎません。

承継とは、制度やスキームを整えることだけでは完結しません。
最後に問われるのは、「どのように関係を引き継ぐか」です。
その意味で、退職金は承継の本質を最も象徴するテーマの一つだと言えるのではないでしょうか。

この記事の監修・筆者

中谷 健太
中谷 健太
(株)新経営サービス 執行役員
「事業承継&経営革新の専門家」
事業承継士は、事業承継の唯一の資格であり、その専門性は折り紙つき。経営者のハッピーリタイアメントに向けて、事業承継の全体最適・プロデュース(弁護士や税理士をコーディネートする立場)を図る事業承継の専門家です。
これまで後継者不在の会社や、事業不振で廃業を検討していた会社、親族が分裂しかかっていた会社、社長の急逝による緊急対策など、様々なややこしい事業承継を担当。
また事業承継のみならず、補助金や国の中小企業政策も活用しながら、数多くの中小企業の経営革新・組織開発の支援を手掛けている。