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M&A型の事業承継による、経営者の後悔

事業承継のアレコレ

2023年08月07日

M&A型の事業承継による、経営者の後悔

(1)M&Aに踏み切れない一番の要因は「経営者としての後ろめたさ」

事業承継においては、他社の傘下で継続(合併)を目指したり、売却、事業譲渡といったM&Aも選択肢となります。
とくに「親族や従業員に後継者がいない」と考えに至った場合は、会社を「廃業するか」「売却するか」の2択に迫られます。
そして、これを比較すれば「売却」の方がメリットがあると考え、会社売却による事業承継を前向きに検討するようになります。

ただし、近年M&Aに対するイメージは向上してきているものの、まだ大多数の中小企業においては「売却意向がない」というのが実情です。

その要因は
「どうせ買い手が見つからない(自社がM&Aの対象にはならない)」
「仲介手数料が高い」
と考えていることもありますが、
一番の要因は「経営者としての責任感や後ろめたさ」といった心理的な側面が大きく影響しているといえます。

(2)売却する一番の目的は「従業員の雇用の維持」

この通り、売却意向がない中小企業がまだ大多数を占めるわけですが、売却意向のある会社(従業員規模が小さい企業ほど売却意向の割合が高くなっています)の一番の目的は「従業員の雇用の維持」です。

とくに経営者年齢が高い企業において、その目的の割合が高い傾向にあります((株)東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」より)。

年齢を重ねるにつれて、社員の将来や生活を心配し始める中小経営者も多くなり、社員はこれまで会社を支え続けてきた存在なので、多くの経営者は「社員の雇用を守りたい」と考えることは自然なことです。

そのような時に理解を示してくれる買い手が見つかれば、社員の雇用を守ったまま経営者は引退できます。

もちろん「事業や株式売却による利益確保」を目的とした売却意向もありますが、その割合は、経営者年齢が若い企業で高い傾向にあります。

(3)売却後、業務縮小等によって従業員が解雇される可能性もゼロではない

売却意向のある会社は「従業員の雇用の維持」を目的として、売却を模索する会社が多いわけですが、売却後に買い手の会社で従業員の雇用が維持されるのかが気になるところです。
この点、買い手の目的が「人材や技術・ノウハウの獲得」とするところが多いことから、M&A実施後も売り手企業の従業員の雇用が継続されるケースは多いとされます。

【図表】 M&A実施後、譲渡企業の従業員の雇用継続の状況

資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業のM&Aに関するアンケート調査」
(注)1.M&Aの実施について、「2015年以降にM&Aを実施したことがある」と回答した者に対する質問。

(株)東京商工リサーチ「中小企業のM&Aに関するアンケート調査」では、8割以上の企業でM&A実施後も全従業員の雇用を継続しているとの調査結果ですが、2割弱の企業では、全従業員の雇用を継続できていないことにも注意が必要です。

このように一部の会社では、売却元の会社が行っていた事業を縮小・廃止することもあり、それによって従業員が解雇されたり、退職勧奨などの措置が行われることがあります。
その場合、従業員は再就職先を探す必要があるため、不安定な状況に置かれることがあります。

また事業を縮小・廃止することは、従業員の雇用だけでなく、取引先、地域社会などに多大な影響を与え、信頼関係の悪化にも繋がります。

このようなことになるのであれば、前経営者は「売却しなければよかった」と後悔を感じることでしょう。

(4)従業員の雇用が維持されても、モチベーションが低下するケースは多い

売却意向を考えている経営者は、売却後も8割以上の企業で、従業員の雇用を維持されるといった調査結果を見ると安心するかもしれませんが、たとえ会社売却が成功し、事業が無事成長していても、前に共に働いてくれていた従業員のモチベーションが低下するケースはよく見られます。

M&Aにより、新しい経営陣によって経営方針や戦略が変わり、その新しい方針に合わせて業務のあり方や仕事内容が変わり、組織の再編が行われる場合があります。
また売却前の会社にあった心地よい企業文化や社風も、会社売却によって失われることがあります。
さらに、買収先の社員との間でのいさかいが生まれてしまうことすることでストレスを感じ、働きがいを見いだせなくなることもあります。

このようなこともまた、前経営者の後悔に繋がります。

(5)売却に伴う経営者の「埋めがたい喪失感」

売却による経営者の後悔は
先に述べたように、

  1. 売却先企業が承継した事業を存続させず、従業員の解雇や、取引先・地域社会に大きな影響を与えた場合
  2. たとえ従業員の雇用が維持されたとしても、従業員がストレスを感じ、働きがいを見いだせなくなるなどモチベーションが低下した場合

の他、

  1. 思っていた以上に売却時の評価額が低い場合や、会社売却に伴う諸費用、手数料、税金などの負担が大きく、思ったほどの資金が残らなかった場合

なども挙げられます。

とくに「親族や従業員に後継者がいない」と考えに至った場合は、事業承継の手法として「売却」といったM&Aも選択肢となりますが、M&Aをする前には予期していなかったことも発生し、経営者がとくに後悔することがある点をお伝えしてきました。
また、それに加えて、会社売却に伴って経営者は「埋めがたい喪失感」に襲われることにもなることでしょう。

「親族や従業員に後継者がいない」場合には、最終的にはM&Aによって事業承継を検討しなければなりませんし、事業承継の手法としてのM&Aを否定するわけではありませんが、
やはり可能な限り、早い段階で親族や社内昇格による後継者候補を見つけ、親族内・従業員承継の道を模索していきたいところです。

この記事の監修・筆者

中谷 健太
中谷 健太
(株)新経営サービス 経営支援部マネージャー
「事業承継&経営革新の専門家」
事業承継士は、事業承継の唯一の資格であり、その専門性は折り紙つき。経営者のハッピーリタイアメントに向けて、事業承継の全体最適・プロデュース(弁護士や税理士をコーディネートする立場)を図る事業承継の専門家です。
これまで後継者不在の会社や、事業不振で廃業を検討していた会社、親族が分裂しかかっていた会社、社長の急逝による緊急対策など、様々なややこしい事業承継を担当。
また事業承継のみならず、補助金や国の中小企業政策も活用しながら、数多くの中小企業の経営革新・組織開発の支援を手掛けている。