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事業承継の後継者探し。子どもの事業承継意欲を高めるには。

経営者向け

2023年08月24日

事業承継の後継者探し。子どもの事業承継意欲を高めるには。

我が国の事業承継の考えでは、家族経営を重視する文化が根強く、東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」では、後継者を選定する際の優先順位1位は「親族」(61.1%)であり、次いで「役員、従業員」(25.0%)となっており、多くの経営者はまず「親族」を第一候補として検討しています。

(1)後継者候補すらいないなら、まずは後継者の「探索」から

後継者を決定するまでには、

フェーズ内容
1 探索今、後継者候補すらいない場合、まずは後継者の探索から。
子どもがいる場合は、まず子どもから探索。
子どもがいない場合は、他親族や、従業員の中から探索。
2 候補選出後継者候補として選出(経営者教育の実施)
3 決定後継者として決定(社内外へ周知、具体的な事業承継計画の実施)

と段階を経ます。

「既に後継者を決めている企業(フェーズ3)」と、まだ「後継者候補はいる段階の企業(フェーズ2)」では、事業承継の準備・対策状況や、経営の承継完了までの期間に大きな差が出ています。

つまり、事業承継対策が本格的に進みだすには、まずは後継者を「決定」することが重要となります。

 

後継者を決定するまで

(2)子どもがいる場合は、子どもが後継者候補としてベスト(積んでいるエンジンが違う)

とくに、後継者の探索の段階では、「子どもがいるか、いないか」で探索の難易度は異なります。

まず「子どもがいる場合」は、その中から探索し、「子どもがいない場合」は、その他親族内や従業員の中から探索することになります。

経営者が後継者を選定する優先順位の一位は「親族」でした。
しかし「できれば息子に会社を継がせたいが、力不足で周りのことを考えるとどうか?」といった悩みを抱えている社長が少なくありません。

確かに経営者には経営能力や高い資質が求められます。

しかし、それよりも重要なのが「会社の存続と発展を心の底から願う気持ち」です。
この気持ちを誰よりも強く抱いているのが創業者であり、それを遺伝子で受け継いでいるのが創業者の親族なのです。

幼い頃から経営者としての祖父や父の背中を見て育ち、祖父や父が大事に守ってきた会社を「廃業させたくない」「さらに自分が守り、発展させていきたい」という気持ちなど、親の事業への愛着は、子どもとそれ以外の後継者とでは埋められない差を感じます。

中小企業経営には定期的に乗り越えることさえ困難に思えるような逆風が吹きます。その時に、最後まで粘り、乗り越える力(馬力)を持っているのが子どもです。
子ども以外の後継者とは、積んでいるエンジンが違うように思えます。

中小企業の後継経営者には創業者の親族(とくに子ども)がベストです。
迷わずに「子どもが最もふさわしいのだ」と自信を持ってほしいと思います。

(3)子どもの事業承継意欲の高め方

中小企業の経営者が後継者候補として一番に考えるのは自分の子どもであり、子どもの承継意欲を高めることは、廃業を減らすうえでは非常に重要です。

一方で、親が「子どもに事業を承継させたい」とどれほど思っていても、子どもからは「継ぐ気はない」と言われるなど経営者と子どもの思いが簡単には一致しません。

日本政策金融公庫総合研究所「子どもの事業承継意欲に関する調査」(2021年)では、子どもを以下5つに区分し、事業承継意欲に関する調査をしています。

<table class=”tbl01″① 承継者
(親の事業を承継した人)② 承継決定者
(親の事業の承継が決まっている人)

③ 後継予備軍
(親の事業を承継したい人)

④ 未決定層
(親の事業を承継するかどうかまだ判断できない人)

⑤ 無関心層
(親の事業を承継するつもりがない人)

<大区分A>
承継意欲が高い子ども

<大区分B>
承継意欲が低い子ども

子どもの事業承継意欲に関する調査

この調査をもとに、よりシンプルに大きな区分で整理すると以下のような特徴が見えてきます。

※承継意欲が高い子ども(親の事業を承継した人、承継が決まっている人、承継したい人)を大区分Aとし、承継意欲が低い子ども(親の事業を承継するかまだ判断できない人、承継するつもりがない人)を大区分Bとします。

 

特徴① 「親の事業の理解度」が高いほど、子どもの承継意欲は高い
~親の事業の概況が「良い」か「悪い」かはさほど影響なし~

「親の事業の理解度」の項目では、承継意欲が高い子ども(大区分A)ほど、親の事業の商品・サービスや業界動向、経営状況など事業の知識に詳しく、一方で承継意欲の低い子ども(大区分B)は、親の事業の知識に乏しいことがわかります。

また、「親の事業の業況」の項目では、承継意欲が高い子ども(大区分A)も、必ずしも親の事業の業況が「良い」から承継しているのではなく、悪くても承継していることがわかります。承継意欲の低い子ども(大区分B)についても、親の事業の業況が「わからない」数が多数を占め、わかっている子どもの内では、親の事業の業況の「良い」「悪い」の比率は、大区分Aとさほど大差はないように見えます。

<親の事業に関する知識や経験(複数回答)>
親の事業に関する知識や経験(複数回答)日本政策金融公庫総合研究所「子どもの事業承継意欲に関する調査」(2021年)

<親の事業の業況>
親の事業の業況日本政策金融公庫総合研究所「子どもの事業承継意欲に関する調査」(2021年)

よって、子どもの承継意欲を高めるには、
「親の事業の商品や業界動向、経営状況などの事業の知識を伝えていくこと」
が重要です。

 

特徴② 親から「継いでほしい」と承継要請があった子どもほど、承継意欲は高い

「承継の要請」の項目では、承継意欲が高い子ども(大区分A)ほど、親から「継いで欲しい」と言われた割合が高く、一方で承継意欲の低い子ども(大区分B)は、承継の要請が低いことがわかります。

子どもの承継意欲を高めるには、
親から「継いでほしい」と承継の要請をしていくこともカギになりそうです。

そして、この5つの区分で事業承継をした・しても良い理由と、承継したくない理由をまとめると以下のようにまとめられます。

事業承継をした・しても良い理由と、承継したくない理由

承継者が、承継した理由は、「ほかに継ぐ人がいなかったから」、「廃業させたくなかったから」など、親の事業への愛着を感じさせる理由が多く、また「経営している(経営していた)親に勧められたから」の割合も高いことがわかります。

承継が決まっている人や、親の事業を承継したい人の、承継しても良い理由は、「事業経営に興味があったから」「事業内容にやりがいを感じたから」「収入が増えると思ったから」など事業の魅力に関する理由や「自分は経営者に向いていると思ったから」といった能力発揮に関する理由から承継を考えていることがわかります。

一方で、親の事業を承継するかまだ判断できない人の判断できない理由は、「事業経営について親と話をしないから」が最も割合が高く、次いで「必要な技術・ノウハウを身につけられるかわからないから」となっています。

親の事業を承継するつもりがない人の承継したくない理由は、「事業経営に興味がないから」が最も高く、次いで「必要な技術・ノウハウを身につけていないから」、「自分は経営者に向いていないと思うから」、「必要な免許・資格を取得していないから」となっている。こうした事業への無関心や能力不足といった理由のほか、「事業の先行きが不安だから」、「事業経営のリスクを負いたくないから」のように事業経営のリスクから承継を考えていないことがわかります。

これらから、結局のところ、当たり前ではありますが

  • 承継に前向きな子ども ・・・ 親の事業に興味ややりがいを感じている
  • 承継に後ろ向きな子ども ・・・ 親の事業に興味がない(わかっていない)

ということになり、

興味ややりがいを感じているか、感じていないかの分かれ道は、
「親と子の間で、事業についての会話があるかないか」ということになります。

後継者不在(後継者候補もいない)といわれる会社の特徴は、言い換えれば
「後継者になりたいと言われるのを待っている」「継ぐ意欲がある人が出てくるのを待っている」という経営者の受け身なのです。

(4)子どもと、事業についてオープンなコミュニケーションが出来ているか

親の事業の業況や見通しが厳しく、同じ苦労をさせたくない場合は「子どもには継がせたくない」「自分の代で廃業しよう」ということから、親から子供へ事業の話をしないという気持ちもわかります。

子どもの意向や可能性を尊重し、彼らの幸福と成長を最優先に考えるのは親として当然のことです。

しかし、子どもにも自分で人生の選択をする権利があります。
子どもにとっても「後継者になりたいか」「なりたくないか」の選択は、子どもの人生における重要な決断です。
その為には、まずは子どもにも「情報」を与えていかなければ、選択肢は拡がりません。

そしてその「情報」は経営者としての良い面ばかりではなく、経営者としての責任やプレッシャー、事業の業況や見通しが悪ければ悪いことも含めて、伝えなければなりません。

その「情報」を与えた上で、やはり子どもが継ぎたくないということであれば、他から後継者の探索をすれば良いでしょう。

「情報」を与えずして、経営者が「子どもから後継者になりたいと言われるのを待っている」「継ぐ意欲がある人が出てくるのを待っている」という受け身では、子どもは承継に向けての選択すらできません。

事業に関するオープンなコミュニケーションをすることこそが、子どもの意向や可能性を尊重し、彼らの幸福と成長を最優先に考えることになるのではないでしょうか?

(5)後継経営者の募集要項のハードルが高い

私は、後継者不在の会社に見られる特徴は、
「求人活動で成果が出ない」会社と同じに見えます。

つまり、求める人物像のハードルを上げすぎていて、応募にすら至らないパターンです。
求める人物像は大事ですが、あまりに厳しく要件を求めすぎると、出会い(面接)すら発生しません。
採用してからの教育も大事であって、鼻から完璧な資質やスキルを求めると採用活動は空振りに終わります。

後継者探しでも同様です。

経営者に子どもがいたとしても、後継者候補にすら上がっていない場合は、以下のような後継者募集要項になっていないでしょうか?

  • 子どもに、承継する意欲があるかどうか
    経営者としての情熱や責任感を持つことは重要ですが、子どもが他の興味や目標を持っていることから、事業を承継する意欲がないと判断。
  • 子どもに、経営者としての適性があるかどうか
    経営者の期待する後継者のスキルや性格が、実際の子どもの適性と一致していないと判断。

子どもと事業に関してオープンなコミュニケーションを交わしていないにも関わらず、親の勝手な判断で、決めつけてはないでしょうか?
子どもに承継する意欲や、子どもの事業に対する想いなど、コミュニケーションを交わして分かることが多いです。

もっと言えば、現経営者も先代から承継した後継経営者であった場合、そのようなことを厳しく求められ、意欲や適性が経営者として問題ないから承継できたのでしょうか?

オープンな対話を通じて、子どもの意向や懸念を理解することができ、子どもの選択に向けてサポートすることもできます。

また子どもの強みや興味についても再確認でき、それを尊重し、後継者としてどのように活かすか、強みやスキルを発展させる上でどのような分野で成長したいと考えているかを考えることにも繋がり、サポートすることができます。

後継者としての必要なリーダーシップ、経営知識、コミュニケーション能力などを磨くためのトレーニングや評価や、後継者「候補」となってからの話であり、これを「探索」の段階で求めては、いつまで経っても自分の基準に叶う後継者は出てこないでしょう。

この記事の監修・筆者

中谷 健太
中谷 健太
(株)新経営サービス 執行役員
「事業承継&経営革新の専門家」
事業承継士は、事業承継の唯一の資格であり、その専門性は折り紙つき。経営者のハッピーリタイアメントに向けて、事業承継の全体最適・プロデュース(弁護士や税理士をコーディネートする立場)を図る事業承継の専門家です。
これまで後継者不在の会社や、事業不振で廃業を検討していた会社、親族が分裂しかかっていた会社、社長の急逝による緊急対策など、様々なややこしい事業承継を担当。
また事業承継のみならず、補助金や国の中小企業政策も活用しながら、数多くの中小企業の経営革新・組織開発の支援を手掛けている。