金融機関にホールディングスを勧められたらどうする?
2024年10月03日
もくじ
ホールディングス化/持株会社とは
近年、事業承継対策としてホールディングス化が一般的になりつつあります。
当初は大手・中堅企業中心でしたが、中小企業にも潮流が押し寄せています。
背景には以下の理由があると考えられます。
- 市場環境の変化に伴い、事業の多角化が求められていること
- M&Aが増加していること
- 創業から歴史のある会社の規模が徐々に大きくなっていること
- グループ法人税制、グループ通算制度などの制度面が充実してきたこと
大企業であれば、管理する会社や事業が多岐に渡るため、管理機能をホールディングスに集約することで、管理人員やコストを最小化することは合理的と言えるでしょう。
一方で、中堅・中小企業においても金融機関等からホールディングス化の打診などが増えてきていると聞きます。
この大きな理由は事業承継のタイミングで株価の低減に繋がるからです。
ただ、私の結論は「ホールディングスによって実現したいビジョンが無いのであればやるべきではない」です。
株価を下げるためだけのホールディングスは後悔している会社が多いのも事実です。
また、ヤフー事件にあるように、節税目的に偏ったスキームでは追徴課税のリスクがあることも周知の事実です。
ホールディングス化のメリット・デメリット
ホールディングスによる株価低減効果
A社の現在の株価が1億円だとします。
このA社の株価が5年後に5倍(5億円)になるとします。
- パターン1 何もせずに、5年後に相続・譲渡が発生
当たり前ですが、5億円が株価の基準金額になります。 - パターン2 持株会社化した上で5年後に相続・譲渡が発生
5億円-(5億円-1億円)×(37%)=5億円-1.48億円=3.52億円が株価の基準金額になります。
実際には株式の保有割合や誰に譲渡(相続)するかによって、株価は変動しますが、37%の控除があるというのがホールディングスによる株価低減のメリットです。
ホールディングス化によるメリット・デメリット
株価低減と合わせて、以下に整理します。
ホールディングスが適している会社とは、「成長意欲の高い会社」です。
株式の承継が必要な中小・中堅企業において、業績を上げると株価も上がるという構図は逃げることができないジレンマです。
ホールディングス化により、株価が抑制されることで「株価を気にせずに事業拡大を図ることができる」という点が大きなメリットでしょう。
一方でデメリットが多数あることも事実です。デメリットは次の落とし穴で詳細を説明します。
メリット | デメリット |
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メリット |
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デメリット |
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ホールディングスの落とし穴
株価低減効果の他、メリットも大きい反面、上記で示した通り『デメリットもある』ということはしっかり理解をした上で検討を行って頂きたいと思います。
落とし穴1
株価低減効果は一時的、コスト増加は半永久的
株価を低下させる効果は、半永久的に続くように見えますが、実際に活かせるのは相続・譲渡を行う際のワンポイントです。
したがって、目に見える形で常に効果が出ているわけではなく、事業承継対策がひと段落すると、コストの増加という目に見えるものだけが残る形になります。
こうなった時にペーパーカンパニーでホールディングスを維持していると、コストだけが毎月加算されていきますので経営者の中で不満や後悔の念が生まれます。
落とし穴2
会社がばらばらになるリスク
会社を分けるということは、違う組織体になるということですので、当然ですが会社独自での運営が求められます。
各社が独自路線を志向することで、経営の軸がぶれ、個社ごとに最適な解を選択する傾向に陥るリスクがあります。
いわゆる各社最適の状態になり、グループ全体視点の喪失や協力関係が欠如します。
落とし穴3
管理人員を増やさないといけないケースが多い
ホールディングスをする際、管理機能を集約することで間接業務人員を削減し、トータルコストを低減することが理想です。
とは言っても、管理機能を集約する場合に、そのまま業務を移管すると業務が移動しているだけで効率化になりません。
結果的に既存の本社人員では足りず、人を増やさざるを得ない状況に陥るケースが多いです。
特に子会社と親会社の地域が異なると、子会社に在籍する管理人員を本社に集約できず、業務は本社に移管される一方で、子会社在籍の人員は別の業務(総務や営業事務など)を担うケースが多いです。
そうなると、結果的に本社で追加人員を雇用することになり、トータル人員数増加(コスト増加)になってしまいます。
成功するホールディングス経営とは
デメリットが多数ある中で、ホールディングス経営を成功させる要素は以下にあります。
要素1
明確なビジョンを描く
デメリットを打ち消すほどの『グループで何を達成するのか』を明確に描き、浸透させることが最重要です。
実際の会社の例では以下のようなものがあります。
- 事業と経営者を生み出し続け、存続をし続けるグループになる
- 社会課題を解決する新規事業を生み出し続ける
- 多角化によって経営を盤石にし、社員が安心して働ける会社にしたい
すなわち、ホールディングスをするにあたっての『動機づけ』です。これがグループ全体を一つにすることにも作用し、結果的にグループ全体の一体感に繋がります。
ホールディングスはあくまで組織の形の一つであり、目的にはなり得ません。
グループとして達成したい目的に向けて、ホールディングスが最適かどうかという観点で今一度検討をして頂きたいと思います。
要素2
デメリットをメリットに変えるホールディングス組織の設計
デメリットがあると記載しましたが、これらのデメリットはやり方次第でメリットに転換することが可能です。
例えば、ホールディングスに管理機能を集約する際に労務管理業務や経理業務などを共通化します。
システムやフォーマットを統合した上で親会社に集約することができれば、子会社の業務効率化と業務集約を同時に実現できます。
ホールディングスにおいては、子会社の業務レベルが親会社と比較して低いことが多いため、一部でも親会社に合わせることができれば飛躍的に生産性が向上するケースもあります。
ホールディングスを検討する際は、事前に落とし穴に対して対策を立てた上で実行することが重要です。
金融機関からホールディングス化を打診された場合、ビジョンの構築とデメリットへの対策を念頭に検討をしてください。