意外と知らない!?株価が高い会社の事業承継手法
2026年02月24日
これまで、事業承継士として数多くのオーナー経営者と向き合ってきましたが、多くで共通する悩みが「高騰した自社株評価」です。
努力の結果、純資産が積み上がり、株価が数億円、数十億円に達している。これは経営者として誇るべき実績である一方、いざ承継となると、足枷になります。
これまで主流だった不動産購入やオペレーティング・リースによる「利益圧縮・評価引き下げ」は、あくまで一時しのぎに過ぎません。
今、求められているのは、小手先の対策ではなく、「幾度かの承継にも耐えられる持続可能な承継スキーム」を構築することです。
もくじ
節税対策の限界
不動産購入やオペレーティング・リースは株価対策の「王道」とされていますが、企業が一定成長すると、いずれ限界を迎えます。
(1)評価を下げる = 企業価値を毀損している
不動産や生命保険、オペレーティング・リースを用いた対策の多くは、損金を算入して「法人税」を減らしますが、それと同時に「純資産価額」を一時的に引き下げています。
すなわち、企業が蓄えた純資産を吐き出すことで株価評価を引き下げます。本業に投下すべき資本を、節税のために社外へ流出させているのです。
(2)数年後に評価が戻る
会社が利益を出し続けている場合、一度評価を下げても数年後には元の水準、あるいはそれ以上に株価が戻ります。
承継の都度、評価を下げる(外部に資金を流出させる)ことは、果たして企業にとって最適なのでしょうか?
(3)限度がある
節税対策は「株式を動かすタイミング」と「評価の底」を合わせる必要がありますが、無理に評価を落とすことは、当然税務上のリスクが伴います。
(4)不動産の限界
「借金をして不動産を買えば相続税評価が下がる」という図式は鉄板でしょう。
しかし、マンション節税への規制強化などにより、近年は極端な評価引き下げに対する監視が厳しくなっています。
また、本業に関係のない不動産を抱えることは、借金を増やし、財務構造を悪化させます。
将来の経営不安や、不動産市況の変動リスクを次世代に押し付けることにもなりかねません。
(5)オペレーティング・リースの限界
航空機や船舶のオペレーティング・リースは、多額の損金を算入できるため、利益が出すぎた年の繰り延べ対策としては優秀です。
しかし、これはあくまで「課税の繰り延べ」であり、数年後のリース終了時には多額の益金が戻ってきます。
合わせて、近年の政情不安においては為替相場が急激に変動しており、思わぬ損失を被るリスクも介在します。
「リース終了時の益金を、社長の退職金で相殺すればいい」という提案もよく聞かれます。
しかし、これは「事業承継のタイミングをリースの出口に合わせる」という本末転倒な出口です。
リース期間内は資金が固定化するため、本業への投資を抑制する必要があるなど、次世代に資金繰りのリスクを押し付けることにもなりかねません。
検討すべき手法
必要なのは、評価を下げることではなく、評価が高くても承継できる仕組み、あるいは評価が上がっても負担が増えない仕組みです。
(1)第三者へ「配当還元価額」で渡す
自社株の評価には評価額が高くなりがちな「原則的評価」と低くなりがちな「特例的評価(配当還元価額)」があります。
同族株主以外の第三者が取得する場合、一定の要件を満たせば後者の「配当還元価額」を適用できるケースが多くあります。
例えば、信頼できる役員に、株式を譲渡する場合、原則的評価の数十分の一の価格で譲渡・移動させることが可能なケースもあります。
これにより、オーナー家の手元から、将来の相続税対象となる株数を合理的に減らすことができます。
(2) 種類株式の活用
①取得条項付き株式
第三者に株式を渡す場合はリスクが伴います。株式を保有する第三者は何も拘束しなければ自由に株式を他者に譲渡することも、会社の買い取り請求を断ることも選択できます。
第三者へ渡す場合は種類株式の一種である「取得条項付き株式」を発行することである一定の事由(条件)が生じたときに、会社が株主から強制的にその株式を買い取ることができます。
例えば、役員の退任時や、不適切な行為があった場合を「取得事由」として設定しておくことで、会社が株式を回収し、意図しない第三者への流出を防ぐことができます。
②無議決権株式の活用
「従業員に経営に関与させたくない。ただし、株式承継の総額を抑えたい」という場合に有効です。
従業員に「議決権のない株式」を渡すことで、オーナー家や後継者は支配権(議決権)を保持したまま、将来の相続財産となる株式を安定株主である従業員に渡すことができます。
(3)役員持株会の活用
「役員持株会」を組成し、議決権を集約する手法も、あまり知られていない有効な手段です。
役員持株会への譲渡は、一定の要件を満たせば「配当還元価額」で行うことが可能です。
これにより、後継者候補である役員たちが、過大な資金負担をすることなく自社株を保有できます。
また、持株会規約で「退職時には会に返還する」と定めておくことで、株式が外部(役員の遺族など)に流出するリスクを防ぎ、議決権を常に経営陣のコントロール下に置くことができます。
(4)従業員持株会の活用
従業員持株会は、福利厚生のためだけのものではありません。
高騰した自社株の一部を従業員持株会に放出することで、オーナー家が将来負担する株式の贈与税や相続税を抑えるだけでなく、従業員の帰属意識も高めることができます。
議決権を与えたくない場合は先述した通り、無議決権株式を活用することでコントロールも可能です。
強い資本構造を目指す
これまで述べてきた手法に共通するのは、「無理に株価を下げるのではなく、株価が高くても影響を受けない構造を作る」という思想です。
企業経営の本質に立ち返ったときに、「評価を下げることは、企業価値を毀損している」ことであり、これが事業承継の都度繰り返されるようではいけません。
「投資は本業に集中させるべき」であり、承継のために本業の成長を犠牲にしてはいけません。
種類株式や持株会をうまく活用することで、財務を毀損させずに事業承継を行うことも可能です。
また、度重なる事業承継に対応できるモデルの構築の一助になります。
- 「後継者が負担なく議決権を確保する」
- 「オーナー家は配当だけ受け取り、議決権は現役員陣に託す」
こうした一見相反するニーズは、現在の法制度を駆使すれば十分に実現可能です。
将来、高すぎる株価に頭を抱えることのない「事業承継に強い資本構造」に組み替えることを始めてみてはいかがでしょうか。



