なぜ中小企業の従業員承継はうまくいかないのか ②「従業員承継」が失敗しやすい理由 | 社員300名までの事業承継コンサルティング

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②「従業員承継」が失敗しやすい理由

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なぜ中小企業の従業員承継はうまくいかないのか
②「従業員承継」が失敗しやすい理由

経営者向け

2026年08月25日

なぜ中小企業の従業員承継はうまくいかないのか <br>②「従業員承継」が失敗しやすい理由

従業員承継は、親族内承継やM&Aと並ぶ事業承継手法の一つです。
近年では親族に後継者がいない企業が増加していることもあり、長年会社を支えてきた役員や従業員へ会社を託すケースが増えています。
実際、多くの経営者が「会社を売るぐらいなら従業員へ託したい」と考えています。今まで苦楽を共にしてきた従業員であれば、企業文化や経営理念も理解しており、取引先や金融機関からの信頼も厚いためです。

しかし、従業員承継は決して簡単ではありません。私はこれまで数多くの事業承継支援に携わってきましたが、親族内承継やM&Aによる第三者承継と比較しても、従業員承継は難易度が高いと感じています。経営者からも、

「能力はあるが本当に任せて大丈夫だろうか」
「営業はできるが経営は別ではないか」
「株式を渡して問題は起きないだろうか」
という相談を受けることが少なくありません。
実際に、従業員承継が上手くいく企業もあれば、失敗している企業も数多く存在します。

その背景には以下の3つの壁があります。

①経営者と従業員との間にある「価値観の壁
②後継者の資産不足による「株式の壁
③家族や他の従業員に生じる「感情の壁

この中でも、最も重要なのが価値観の壁です。
株式の壁は金融機関の融資や持株会社などの仕組みによって対策できます。
また、近年では様々なスキームも世に出回っているため、資産背景の無い従業員といえでも、一定の対策が可能になっています。

感情の壁は、関係者との対話や丁寧な説明によって乗り越えることが可能です。
また、会社によっては、感情の壁を気にせずとも、株主や親族が協力的で事業承継がスムーズにいくこともあります。

しかし、価値観の壁だけは制度やスキームでは解決できません。
経営者としての価値観や判断軸は、時間を掛けて形成する必要があるからです。よく後継者指名で間違えるのは「優秀な社員」を指名することです。
当然能力も重要ですが、その前提に価値観や人としての資質が求められます。
私は以下のように整理しています。

考え方 解釈
能力 十分条件
  • 経営者においてあるに越したことはないもの
  • 優秀な右腕・左腕がいれば低くても良い
価値観/資質 必要条件
  • 経営者において必須のもの
  • 人の上に立つ人間として必ず求められるもの

すなわち、経営者の土台は価値観/資質であり、その上に能力があります。

失敗事例

株式譲渡の失敗で創業者が追い出されたケース

創業80年を迎える従業員数100名の金属加工メーカーの例です。
創業社長は62歳、後継者に勤続30年の営業担当取締役を指名しました。

創業社長に子がおらず、親族内にも候補者がいない状況でした。創業社長は残り3年で、社長交代を目指していました。
その際、後継者を専務取締役とし、専務を支えるキーマンの部長を新たに取締役に任命し、常務としました。

また、株式を専務と常務にそれぞれ30%ずつ渡し、社長が40%、専務30%、常務30%の比率としました。
ただし、株式を渡して以降も実質の経営権は創業社長が握っており、トップダウンで意思決定を行う体制は変わりませんでした。
時には、経営方針の違いによって役員間で揉めることがしばしば発生していましたが、株主総会の決議がひっくり返るようなことはなく、創業社長もそこまで問題視はしていませんでした。

しかし、取締役間で仲違いする場面が増加し、2年後の取締役会で創業社長の解任が突如起案され、専務と常務が賛成し可決。
また、株主総会でも過半数を専務と常務が保有していたために可決となり、創業者が追い出されることになりました。専務と常務が結託し、創業社長を追い出しました。

その後、社長となった専務は自身の子飼いを役員に就任させ経営を執り行っていましたが、「創業社長を追い出した後、役員報酬を大幅に増額していた」ことが子飼いの役員にばれ、従業員に広まりました。
その結果、離職者が増加したこと、赤字の責任を取る形で専務も経営陣から退く形になりました。

その会社は現在も役員間の仲が悪くけん制し合い、赤字から立て直せずにいます。
役員間で覇権を争う風土が定着してしまったのです。役員が抱える業務に他の役員が口出しできず、ブラックボックス化して赤字事業が放置されるといった危機的状況に陥っています。
創業社長が追い出されて以降、真の経営者が生み出されないままに、衰退の道を辿っています。

この事例企業における真の問題は株式ではなく経営者教育です。
経営者の影響力は従業員と全く異なるにも関わらず、その自覚が専務にはありませんでした。
会社を私物化すればどうなるのか、従業員にどう見られるのか、という意識が欠如しています。

後継者の育成という観点では、

❶株式を先に渡し、社長のポストを後に渡す
❷社長のポストを先に渡し、株式を後に渡す
❸同時に渡す

という論点があり、事例企業は❶を選択しています。
理想は、株式を渡す前に経営者教育を行い、会社を私物化しないなど、経営者としての立ち居振る舞いを学び、「経営者としての人格を形成すること」が先です。

メリット デメリット
❶先:株式
後:ポスト
  • 経営者の自覚を早期に芽生えさせる一助となる
  • 株価上昇前に承継できる可能性がある
  • 経営者としての人格形成前に権限を持たせるリスクがある
  • 取り返しが困難
❷先:ポスト
後:株式
  • 経営者としての適性や判断力を見極めてから承継できる
  • 価値観の壁を乗り越えたことを確認してから株式を渡せる
  • 万一不適格と判断した場合でも軌道修正しやすい
  • 後継者から「株式をいつ渡すのか」と争いになることも
  • 株価上昇により買い取り負担が増える可能性がある
❸同時
  • 社長交代と株式承継を同時に行うため対外的に分かりやすい
  • 退職金支給や組織改編と合わせて経営者交代を印象付けられる
  • 後継者の適性を見極める期間が短くなる
  • 取り返しが困難

中には、株価低減対策の都合で人格形成の前に株式を後継者に譲渡する会社も存在します。
これは、血縁関係という強い結びつきがある親族内承継であれば、問題が生じる可能性は低いかもしれませんが、従業員承継においてはお勧めしません。
「価値観の壁」がある中で、「従業員が本当に経営をできるのか」を見極めてから株式を譲渡すべきであり、その判断は「社長就任後」に行うべきです。
少なくとも1年~2年は様子を見た上で、譲渡すべきです。

逆説的ですが、「価値観の壁」さえ乗り越えていれば、株の承継のタイミングは早くとも遅くとも問題になりません。
今回の事例は「価値観の壁」を乗り越えていない中で「株式の壁」の対策を性急に進めたために発生した失敗だといえます。
株式を譲渡するという行為には多額に金銭が発生するため、後戻りは困難です。順序を誤ると事例企業のような失敗に陥ります。

この記事の監修・筆者

上坂 研祐
上坂 研祐
(株)新経営サービス シニアコンサルタント
事業会社の法務審査業務、大手コンサルティング会社のマネージャーを経て当社に入社。 「経営者に寄り添い、思いを具体化する」を信条とし、中小・中堅企業を中心に事業承継支援を行う。
これまで後継者不在会社の承継対策や、従業員への承継、ホールディングス化と合わせた事業承継スキームの構築、親族間で仲が悪い場合の事業承継など様々なケースでの事業承継を担当。
節税だけに留まらない、全体最適での事業承継支援に強みを持つ。 また事業承継のみならず、中期経営計画策定、グループ経営など経営戦略の支援を手掛けている。